仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
ふう、とこっそり息を吐いた。

心臓はいまだに早鐘を打っているし、首から上がじんわりと熱を持っている。

顔、赤くなっちゃってるかも……。

制服の襟元を整えながら、落ち着け、と自分に言い聞かせる。
あと三十分。いつも通り業務に集中しないと。


フロント端末に来訪の通知が表示されたのは、私が休憩に入る寸前のことだった。

【本日 13:00】
本社代表取締役付
秘書 沖野 鞠子 様

ただの文字列にすぎないのに、肩書と彼女の名前にすでに存在の重みを感じる。
数秒間、画面を見つめてから、私はカウンターを離れた。


自働ドアが開いた瞬間、昼下がりのやわらかな空気がほんの少し変わった気がした。
急に酸素濃度が薄くなったような。首元のスカーフがいつもよりきつく締まっているような。

……さすがに夜見社長が現れたときほどではないけれど。


入ってきたのはすらりと背の高い女性だった。

艷やかな黒髪をきっちりまとめ、品のいいネイビーのスーツを完璧に着こなしている。

手には革製の手帳とタブレット。背筋がまっすぐに伸びているのに加え、彼女のヒールの音はきれいに一定のリズムでエントランスに響いていた。

圧倒されると同時に、見惚れてしまう。

なんていうか、ドラマの秘書役の女優さんをそのまま連れて来たみたい……。
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