仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

夜見社長は基本、エントランスには立ち寄らない。
柳さんにそう言われたばかり。

大丈夫。気にすることはない……。


深夜のクラルテは昼間とはまるで異なる空気が満ちている。
人の往来がゆるやかに引いていき、静けさが訪れる。というよりも、もうひとつ別の時間が流れ込んでくる感覚に近い。

昼と夜とで、エントランスをくぐる人々の顔ぶれは明らかに違う。
そしてここには、昼の匂い、夜の匂いというのがたしかに存在していた。

忙しさだけで言えば昼間のほうが大変だ。
だけど、深夜はそれを上回る緊張感がある。

これは前のマンションでも同じだった。
昼と比べれば応対の数こそ減るものの、一件ごとの要望の規模が大きかったり、あるいは急を要するものが多かったりする。

それに加えて、深夜に出入りすることを常とする人々はたいてい、夜の気配にすっと馴染むような独特の雰囲気をまとっているのだ。

それこそ夜見社長がいい例。

迂闊に目を合わせられない、危ういほどの魅力……。

そう、まさしくこんな感じの──。

「──っ、ぇ……?」

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