仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
なにやら一瞬変な声が聞こえたと思ったら、自分だった。
フロアのエレベーターが開き、そこから降りてきた人物に目が釘づけになる。
無意識に瞬きをくり返してしまった。
……うそ。どうして。
こちらの動揺など当然意に介さず、彼は静かな足取りでデスクへ向かってくる。
色香を帯びた端整な容姿。
三揃えの高貴なスーツ。
それを違和感なく着こなす圧倒的な気高さ。
……間違いない。間違えるわけがない。
夜見社長だ。
「──お帰りなさいませ」
鼓動がバクバクと耳元で響く。
一礼して姿勢を正すまでのほんの数秒間で、私の脈拍は余裕で百二十を超えたんじゃないだろうか。
「夜遅くに申し訳ないが、少し頼みたいことがありましてね」
声を掛けられことで、ようやく我に返った。
私はコンシェルジュ。
そして、ここでの彼は、“夜見社長”である前にクラルテの住人だ。
「ええ。どのようなご相談でしょうか」
「今週土曜の午後、大事な取引先の方々を招いて会合を開こうと思っているんですよ。会合といっても、私的なものですが」