仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
……よみしゃちょう――夜見社長?

ちょうど笹井さんと話してた、あの“夜見社長”?
が、私を呼んでる……?

いきなりのことで頭が置いてけぼりをくらってしまう。

「あまり時間がないっぽいので、早く来てください!」
「へ? あ、はいっ……」

脱ぎかけの制服を慌てて整えて、急かされるままに更衣室を出た。

どうして夜見社長が……?

戸惑いをこじ開けるようにして出てきた緊張が、ついには喉元までぐわぐわとせり上がってくる。

夜見社長が自身の運営するマンションを訪れること自体はありえる話だけど、そこのコンシェルジュのひとりをわざわざ呼び出す理由はさっぱりわからない。

彼が同行していたらしい今日の視察の時間、私はお昼休憩でその場にいなかった。
つまり、私の顔も名前も認知されているはずがないのだ。

それに、一日に二度も同じ場所を訪れるほど暇人じゃないだろうし……。

もしかしたら私は、他の誰かの名前を「夜見社長」と聞き間違えたのかも。うん、たぶん、絶対にそう。

彼はこのマンションの最上階よりも遥か高いところにいる、手の届かない存在。

だから、休憩室の廊下を曲がった先に夜見社長が立っているなんてこと、あるわけが……
───ない、のに。
< 5 / 46 >

この作品をシェア

pagetop