仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
誰かの権威を引き合いに出すような真似はしたくないのだけど、納得してもらうために仕方なくその名前を出した。
五十嵐くんの表情が、ふと曇る。
「……ああそっか。夜見社長ってここに住んでるんだっけ。偉い奴ってなんで他人のプライベートまで管理したがるんだろうな。口出しされる筋合いないっつーの」
「管理とか、そういうのじゃないよ。私も夜見社長の言ってることは正しいと思う」
刹那、私たちのあいだに嫌な空気が流れた。
しまった。言葉選びを間違えたかもしれない。
まるで五十嵐くんが間違ってるみたいな言い方……。
「はっ。夜見社長が正しいとか笑わせる。成田も知ってんだろ、あの人のヤバい噂」
「っ、それとこれとは今関係ないよ」
「成田」
低い声にびくりとする。
背筋にぞくりと冷たいものが走った。
「今日どうしたんだよ。なんか、お前らしくない」
「……、え……?」
「いや、なんつーか……成田ってこんな風に人の言うこと否定するタイプじゃないだろ。本当はもっと素直でいい子だよな」
五十嵐くんが背を屈めて、視線を合わせてくる。
私らしくない。
本当はもっと素直でいい子。
そっか。これが、五十嵐くんの理想とする私──五十嵐くんが“好き”だと言う私なんだ……。