仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

誰かの権威を引き合いに出すような真似はしたくないのだけど、納得してもらうために仕方なくその名前を出した。

五十嵐くんの表情が、ふと曇る。


「……ああそっか。夜見社長ってここに住んでるんだっけ。偉い奴ってなんで他人のプライベートまで管理したがるんだろうな。口出しされる筋合いないっつーの」

「管理とか、そういうのじゃないよ。私も夜見社長の言ってることは正しいと思う」


刹那、私たちのあいだに嫌な空気が流れた。

しまった。言葉選びを間違えたかもしれない。
まるで五十嵐くんが間違ってるみたいな言い方……。


「はっ。夜見社長が正しいとか笑わせる。成田も知ってんだろ、あの人のヤバい噂」

「っ、それとこれとは今関係ないよ」

「成田」


低い声にびくりとする。
背筋にぞくりと冷たいものが走った。


「今日どうしたんだよ。なんか、お前らしくない」

「……、え……?」

「いや、なんつーか……成田ってこんな風に人の言うこと否定するタイプじゃないだろ。本当はもっと素直でいい子だよな」


五十嵐くんが背を屈めて、視線を合わせてくる。

私らしくない。
本当はもっと素直でいい子。

そっか。これが、五十嵐くんの理想とする私──五十嵐くんが“好き”だと言う私なんだ……。
< 50 / 209 >

この作品をシェア

pagetop