仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
心臓が飛び出るところだった。
まるで気配がなかった。
私があの場を離れてからまだ五分も経っていない。
てっきり、まだ鈴原様と話しているものだとばかり思っていたのに。
「さっ……、先ほどは鈴原様とのお話し中に割り込んでしまい申し訳ございませんでした」
冷静に受け応えをするつもりが、目が合った瞬間、一方的な謝罪が口をついて出た。
夜見社長の目が、少しだけ細められる。
「なぜ謝る必要が? 私のためにしてくださったことですよね」
「っ、それは……」
「危うく相手に名前を尋ねるという無礼を働くところでした。本当に助かりましたよ、ありがとうございます」
「いえ……お役に立てたのでしたら、なによりでございます……」
機械で読み上げたようなぎこちない返事になってしまった。
あの夜見社長がわざわざ私にお礼を言いに来るなんて。
これは現実だろうか?
こんな恐れ多いことがあっていいのだろうか?
なにはともあれ、助けられたのならよかった。
彼が困っているのは私の勘違いだったかもしれない、出過ぎた真似をしてしまったんじゃないかと不安だったから。
「それにしても成田さんはすごいですね。クラルテへ来てまだ一週間なのに、もう入居者の顔と名前が判るなんて」
「たまたまです。鈴原様のことは、数日前に自分が応対したので覚えていただけで」
「それがすごいと言っているんですよ。内外から毎日大勢の人が訪ねてくるのに、たった一度応対しただけで覚えてしまう。私には到底できません」