仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~

首元からぐんと熱がせり上がってきて、瞬く間にキャパが限界を迎えた。

そんな私の口からは、「とんでもありません、恐縮です」などと頼りない声が漏れる。


「それだけじゃない。入って三日目には既に先輩スタッフの補佐なしで完璧に業務をこなしていたと聞きましたよ」

「いえっ、完璧とはほど遠いのですが、その……小さい頃から記憶力には少しだけ自信があった、というのはあるかもしれません」

「へえ。しかし一番はあなたが努力家だからでしょう。クラルテへ来ていただけて本当に嬉しい限りです」


ここまでくるともはや褒め殺しだ。

これが夜見社長のやり方なのかもしれない。

完璧な笑顔に惜しみない言葉を重ねて、相手の内側へするりと入り込む。
そして気づいたときには、もうこちらに逃げ場は残されていないのだ。

……おそろしい……。
こうやって、今までいったい何人の人の心をからめとってきたんだろう。

“人の血が流れていない”という噂が、ある意味、改めて理解できた気がした。
相手の感情のゆらめきすら、初めから計算のうち。

彼の笑顔はとても美しいけれど、いつも決まって人間味がなく冷たささえ感じる。仮面をかぶっているみたいだ。

そんな奇妙な美しさに抗えず、私たちは心を差し出してしまう。自ら落とされに行ってしまう。すべて彼の手中だとわかっていても……。


「──本心ですよ。あなたに対しては」

ふと、低い声が耳元で囁いた。

わずかな間を置いて心臓が大きく跳ねる。

さっきよりもうんと近い距離で視線が交わっている。


「頑張るのはいいですが少しお疲れのようにも見えます。あまり無理はしないように。……では」
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