仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~


気づけば一日の終わりを迎えていた。

スカーフを外した瞬間、くらりと目眩に襲われる。

今から駅まで歩いて、電車に乗って……。
考えるだけで気が遠くなりそう。

出勤前に買っておいた栄養ドリンクを喉に流し込みながら、重い足取りでロッカー室をあとにした。


スマホが鳴ったのは、クラルテの通用口を抜けた、ちょうどそのときだった。

画面に現れた【五十嵐くん】という文字に、心臓が冷たい音を立てる。


木曜に会う約束は、体調がすぐれないからと断ったのに……いったいどうして?

もしかしたら大事な用かもしれないけれど、今は話す気力がない。

しばらく画面を見つめていると、音は途絶えた。


外に出ると霧雨が降っていた。
鞄から折りたたみ傘を取り出しながら、思わずため息がこぼれる。

低気圧の影響だろうか、朝から続く頭痛はさらにひどく重たくなっていた。

身体に鞭を打つようにして歩みを進めるものの、足元がおぼつかず、ふとした拍子にふらついてしまう。

……タクシーを呼んだほうがいいのもしれない。

ぼんやりとそう考えた直後のこと。
背後から突然、車のクラックションが鳴り響いた。

とっさに道路脇に身を避けたけれど、その車は通り過ぎることなく、私のすぐ横にぴたりと止まる。

────見覚えのある白いスポーツカー。

心臓が再びいやな音を立てた。


「成田、なにひとりで帰ってんの?」

車の窓が開き、五十嵐くんが中から身を乗り出しながらこちらへ声を掛けてくる。

私はしばし言葉を失った。
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