仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
「早く来いよ。抵抗したら許さないからな」
刹那、底知れない恐怖に駆られた。
「やだっ、やめて……!」
気づいたときには相手の腕を思いっきり振り払っていて、その拍子で体が後ろへよろけた。
濡れた地面で足が滑り、危うく転びそうになるのをなんとか踏みとどまる。
「…………は?」
低い声が落ちる。
一歩ずつ、相手が静かに距離を詰めてくる。
再び引き寄せられたかと思えば、次の瞬間には肩を掴まれ、そのまま車体へ叩きつけられた。
強い衝撃に視界がくらくらと回る。
五十嵐くんの指が強く食い込んで、まったく身動きが取れない。
その目は、もう完全に正気じゃなかった。
「じゃあなんだよ。俺のこと弄んでたのか?」
「……違う」
「はあ? 適当なこと言ってんじゃねえよ! こっちは本気で好きで、お前にヘンな虫がつかないように、毎日毎日毎日……仕事が終わったあとも必死で見守ってきたってのに……!」
「え……?」
毎日、仕事が終わったあとも……って、まさか……。
「五十嵐くん、お願いだから……ちゃんと話を、」
私が言い終わらないうちに、五十嵐くんが大きく手を振り上げた。
────殴られる。
反射的に強く目を閉じた、その矢先だった。
「ずいぶんと騒がしいですね」
雨音にまぎれて、ふと誰かの声が聞こえた。
その声はひどく静かなのに、濡れた空気をまっすぐに裂くようにして、はっきりと耳まで届いた。