仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
彼の冷ややかな物言いに内心震えながらも、それでも、と思う。
クラルテの品位を損なう行為を見逃せなかっただけなら、厳しく注意をしてそのまま去ればよかったはずだ。
それなのに、わざわざ嘘を吐いてまで私をあの恐怖から逃してくれた。
「……でも、理由はどうあれ、社長があのとき私の手を引いてくださったことが何より、本当に嬉しかったんです。……ありがとうございました」
どうしても伝えたい気持ちがこみ上げて、なんとか緊張を殺しながらその言葉を吐き出すと、バックミラー越しに視線が絡んだ。
てっきり厳しい目を向けられるのだろうと思ったのに、彼は小さく微笑んでみせる。
「あなたが怪我をしなくてよかったです」
いつも画面の中で見ている、完璧に整えられた笑顔じゃない。
ふっと仮面が外れたような柔らかい表情に、一瞬、呼吸が止まりかけた。
……あれ? 急に、なんだろう、これ……。
急に胸が苦しいくらいにいっぱいになって、ただ相手を見つめることしかできなくなる。
「それと、この前は私もすみませんでした」
「へっ?」
「彼が──五十嵐さんがクラルテへ来られたとき、あなたの恋人だと決めつけて、つい言い方が強くなってしまいました」
「っ!? いえ、謝らないでください……! 社長のご指摘はごもっともで……業務中に、その……プライベートな面会はだめだと思います私も……たとえ、こ、恋人でもっ……」