仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
仮に、彼が今なんらかの理由で誰かと結婚しなければならない状況だったとしても、どうして……
「どうして……私、なんでしょうか……?」
「と、言いますと?」
「社長が相手なら、大半の女性が首を縦に振ると思います。そんな中で、わざわざよく知りもしない私なんかを選ぶ理由が……わかりません」
一介の社員を助けたいからという理由だけで持ちかけるには、あまりにもリスクが多すぎる。
それこそメリットがない。
じっと見つめれば、彼は「そうですね」と、ゆっくり相槌を打った。
────底が見えないほどの深い瞳。
……心まで、なぞり尽くされそう……。
「しかし、あなたのことはそれなりによく知っていますよ」
「え……?」
「前にも言いましたが俺はあなたの仕事ぶりに惚れているんですよ。できれば俺の手で直接扱いたいと思うほどにはね」
「っ、や、やめてください、買い被りすぎです……」
「それだけじゃありません」
彼の唇の端がわずかに持ち上がる。
やりすぎなくらいに色っぽくて、美しい。
対する何者でもない自分は、なんだか無防備に晒されている気分だ。
見惚れているうちに、距離がまたひとつ近づいて。
「未だ手付かずで残っている、あの一等地の地主の娘さん────あなたにはとても興味があります」
そんな言葉が、かすかな冷気を孕んで耳元に落ちた。
どく、と心臓が大きく揺れる。