仄暗いほど重たい愛 ~偽装妻ですが、冷血御曹司は手放す気がないようです~
……指輪。
ときめくはずの言葉なのに、気持ちは反対に沈んでいく。
「あの……指輪は無理に用意していただかなくて結構です。こういう関係、ですし……」
申し訳ないという気持ちを滲ませてそう伝えると、彼は何を思ったのか、わずかに俯いた。
一瞬、その瞳が憂うように揺れた気がして、どきりとする。
けれど、本当に気のせいだったみたい。
次にまばたきをしたときには、いつも通りの笑顔がそこにあったから。
「それでも、贈らせてください。俺があなたに付けていてほしいんです」
優しい言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
この笑顔を向けられるたびに、私たちの境界線がくっきりと濃くなっていく気がする。
「……わかりました。ありがとうごさいます、楽しみに待っていますね」
嘘ではないけれど、本物にもなれない。
そう返事をするだけで、精一杯だった。
彼が去ったあと、ひとり残された広い廊下でしばらく考える。
形式的にでも妻となる以上、周囲へのアピールとして指輪はつけてほしいという意味だろう。
彼がくれるという指輪は、愛を誓うためのものじゃなく、この歪な関係を繋ぎ止めるためのもの。
冷たい言葉で自分を戒めて。
さみしいなんて感情がもう二度と出てこないよう、淡く燻ぶった想いに固い固い鍵をかけた。