哀しみのオレンジZERO 幸人
EPISODE2 殺戮のミミズ
時は流れ2019年8月。30年続いた平成から時代は令和へと変わり、トレンドや社会情勢も大きく変化した。時代が進むにつれて温暖化も進み、夏の季節が特に過ごし辛くなったかもしれない…
東京都新宿区葉琉州町。最高気温35度の炎天下でハイブランドのクールビズスーツ(長袖ワイシャツ)を着こなし、腕捲くりもせず歩いている男の名は水瀬幸人。彼は21歳になり、高校在学中に国家公務員採用試験に合格し、警察学校を卒業後はかなり早い段階で何と…
ブーブー…
「はい…」
「水瀬幸人君…新たな任務だ…」
「了解しました…」
「だがな、なるべく手荒なことは避けてくれ…」
「努力しますよ…」
彼の職業は警察のエリートと言われる公安だ…そして今回与えられた任務は隣町の華理州町に置くホストクラブ、スターライトヘブン。そこに入った男性キャストが次々と行方不明になっており、一部の女性客は睡眠薬を飲まされて陵辱されたという話が出回っている。変装や潜入捜査などは公安の仕事の一つ。彼は身バレ防止のために自家用車を持たないため、移動手段は徒歩か電車、もしくはタクシーだ。理由としてはナンバーを控えられてしまう恐れがあるためだ。彼は電車で葉琉州町から華理州町まで移動し、偽名でアポを取るがまだ時間はある。華理州町を少し眺めておこう。
コツコツコツ…
真夏の大都会を歩くと生脚と生足の魅力が彼を釘付けにする。彼は高校を卒業してから恋愛をしていない。まだ21歳だから恋してみたいのも当然だろう。胸の谷間に露出されたお腹、この街以前に東京なら当たり前のファッションだ。だが街から外れそうな付近を歩いていると…
「お兄さんイケメンだね…?今ならホ別特別に1だけど?」
彼に声を掛けたのはまだ20代…いやより下に見える女性。どう見たって中学生か高校生にしか見えない。こんな年端も行かない女の子にほぼ下着に近い服装を着せて立ちんぼか?そんな幼い誘惑に引っ掛かるほど彼は甘くない。それでもここは一旦…
「いいんですか?でも1じゃ割に合わないと思いますので…3は払いますよ」
「…!?いやいや…無理しなくていいのよ?本当1でいいから!」
彼の提案に少女は唖然。それでも多く払ってくれるなら好都合…
「じゃあ近くのホテルあるから、そこでいいかな?」
「はい」
まさか誘いに乗ったのか?だが彼の裸はあまり見るべきではない。
「名前は何て言うの?」
「僕は水瀬幸人です」
「水瀬幸人…変わった名前だね?」
「そうですか?確かに水瀬も聞きませんし幸人も被ったことなかったですね」
「……」
少女は何か言いたいように口をパクパクさせている。本来風俗店で働く女性というのはお客に対してどうしても訴えたいことはないはず。彼は一瞬で強要されていることを見抜いた。歩いて5分経つと
「ここでいいかな?じゃあ1でいいから…」
少女は強引に彼の手を引っ張ってホテルに連れ込もうとしている。やはりな…
「ちょっとすいません…」
「何よ…!?」
「入らなくても問題は背後にありそうな気するんですよ…」
「えっ…」
「ほら…例えば後ろから監視ごっこしている奴とか…」
彼はゆっくりと背後に振り向くと
「何ッ…!?」
監視していた男は焦って彼の前から一目散に逃げようとするが
カチッ…バーン!
「うわぁ…!?」
「えっ…うそ…」
「紹介が遅くなりました…僕ハム(公安の隠語)なんですよ」
「ハムって…まさか公安!?」
だから銃を懐に持っていたのか。銃声は聞こえたが撃った動作が一切見えなかった。
「けど安心してください…教えたからには、あなたのこと必ず助けますから…」
「助けるって…何を?」
「取り敢えず場所移しましょう…暑いからカキ氷でも食べましょうか?」
「ちょっと待って…私稼がなきゃマズいの!」
「必要な分ならお支払いしますよ。僕といた方が安心できるでしょう?」
「…そうかもね!」
1日前。東京都新宿区華理州町に置く人気ホストクラブ、スターライトヘブン。比較的小規模だが売上はかなり好調出毎日のようにシャンパンが開く。だが最近奇妙な話が出回っている。最近入ったばかりの21歳の人気ホスト、綾辻栄太が行方不明になっていると…
「ハイ!今日も素敵な姫からボトル入りました〜!」
「そんなんじゃ足りない!タワー作っちゃって!」
「おっとここでシャンパンタワー!」
シャンパンタワーを入れた女性客は社長さんか?いかにもVIPな人だ。店を盛り上げるのはオーナーホストの羽太悠磨(30)。
「君の瞳に乾杯…」
「乾杯ッ…」
チンッ…ゴクゴク…
「もう一人隣に栄太君いれば完璧だったのにねぇ?どうして辞めちゃったのかしら?」
「あぁ〜…栄太はちょっと爆弾(業界のタブー)やらかしちゃいまして…」
「そうなのねぇ…そんなことする子じゃないと思ったのに、見損なっちゃったわ…」
ゴクゴク…
栄太の話を振られた悠磨の表情は見えないような険しい感じになり、シャンパングラスを握る手に握力が込められていく。そもそも辞めた理由に禁忌を犯したと説明しているが実際は何だ?悠磨が付いているテーブルは大盛り上がりだが別のテーブルでは…
「お願い…!もう1本だけ入れて!」
「もう私持ち合わせが…また今度入れるから…!」
「でもまた今度って来月だよね!?来月になると売上が水の泡になっちゃうんだ!だからお願い…!」
確かに水商売は売上で給料事情が変わる業界だ。給料の他No.1になりたい理由など様々だろう。今もう1本入れてくれと懇願されている女性客は丸眼鏡を掛けた少しオタクっぽい女性。数回の来店で颯也というホストに惚れ込んだようだ。数分あまり説得され続けると…
「わかった…ヴーヴイエローくらいなら…」
「いいのか!よしそうと決まれば…ヴーヴイエロー入りましたぁ!」
「あぁちょっと…」
決まるや否や何の迷いもなくシャンパンコール。女性の表情が引き攣っている。来月の給料日まで切り詰めていこう…シャンパンを入れてすぐチェックすると…
「えっ…!134万円!?私入れたの2本だけですよ!」
「ごめんなさいねぇ?颯也のサービス料今回から高くなっちゃったんですよぉ!」
「だからって134万…!?そんなお金…」
どれだけ財布を叩いても現金は17万円。そもそも2セットで4万円以内のシャンパンを2本入れたくらいならここまで金額は高くならない。
「お金…」
「あぁん!?」
「キャッ…!?」
「払えないなら身体売って稼いできてもらうしかないなぁ?」
スターライトヘブンは法外な金額を請求し、払えなければ風俗店に売るという営業を行っていた。セレブや女社長などいかにもな人間にはしないのだが、弱そうな女性ばかり狙っては繰り返している。女性客はそのまま強制的に別室に連れて行かれ…
バタン…!
店のバックヤードには顔にもタトゥーが刻まれたスキンヘッドの厳つい男。あまりの圧に身体が硬直する。すると1枚の借用書とボールペン、朱肉をテーブルに出し
「一旦はうちで払ってやらぁ。だがあんたに貸す134万だけどよぉ…利子はトゴ(10日で5割)な!」
「トゴ…!?」
「拒否権があるとかサツに言おうなんて考えるなよ?うちは海外マフィアなんでな…」
「そんな…」
お金を使い過ぎた程度なら親に頭を下げて「衝動買いした」と謝罪し、少しの援助を求めてもバチは当たらないかもしれない。だが自分はまさに裏社会のとんでもない奴と関わってしまった…
「あんたには明日から生中OKだったりア○ル○ァックOKなりして稼いできてもらう…やり方は立ちんぼでも俺たちの店でも構わねぇ…頑張って稼げよ姉ちゃん?」
どれだけ拒否をしても、嫌と訴えれば暴力を振るわれる。奴らは社会的にも、力でも追い詰めるクズ中のクズだ。
「ギャァァァ…!!」
「えっ…!?何今の声…!?」
「おっと今のは気にすんな…こっちの問題だ…」
どこの部屋からかわからないが明らかに男性の痛ましい悲鳴が耳を突いた。
「まっ…俺たちに逆らったら姉ちゃんもあれ以上の悲鳴を上げるかもな…?」
遠くからだがここまで聞こえてくるなんて壮絶な痛みであることは容易に想像できる。逆らったら間違いなく殺される…!
「じゃあ唯菜さんのお兄さんが、スターライトヘブンに?」
「そう…兄は私を養うためにホストに入ったの…自分で言っちゃ何だけど、兄は人気ホストだし稼いでるはずなのに…お金貰えてる気配もなかった」
どうやら彼は自分が望みさえすれば運が回ってくる。まさか捕まえた立ちんぼ少女の兄が面接に行くスターライトヘブンのホストだったとは。少し検索してみると「人気ホスト、綾辻栄太 失踪?」と書かれている。
「綾辻栄太が兄の源氏名よ。本名は斉藤雪斗」
少女が幸人の名前を聞いた瞬間に口をパクパクさせていたのはおそらく「兄の名前に似てる」とでも言いたかったのだろう。紹介が遅れたが今彼と話し合っている少女の名前は斉藤唯菜。15歳の中学3年生。そして兄の雪斗は20歳だ。今年の始め頃に両親を事故で亡くし、雪斗は大学を中退して稼ぐためにスターライトヘブンのホストとして働き始めた。唯菜は中学を卒業したら働くと兄に訴えたのだが、
「学費のことは兄ちゃんに任せろ」
と言われ続け、兄をずっと信じ尊敬してきた。唯菜が立ちんぼをしていたのは、何らかの理由で因縁をつけたホストたちが数人でリンチを繰り返し、唯菜の連絡先を入手すると
「兄貴を助けたければ風俗で稼げって脅されたの…」
「お話はよくわかりました。後は僕に任せてください」
「任せてって何するの?」
「実はこれから面接なんですよ。そのスターライトヘブンの」
「マジで…?」
「はい」
「ならお願い!兄を助けて…兄はお酒飲めないのに私のために頑張ってくれたの!だから助けて…!」
「Yes Mommy」
「マミー?」
彼は時々承った言葉として「Yes Mommy」と言う。特に女性からの頼みなら尚更そう答える。
「独り言です…気にしないでください」
時間がない。一刻も早く採用されてスターライトヘブンに潜入しなければ…
1時間後。
「水瀬幸人です。よろしくお願いします」
面接官はオーナーホストの羽太悠磨。見るといかにもきらびやかな男。
「水瀬幸人君、年は21歳ね?(コイツ無駄にイケメンだな…)何でホストやろうと思ったの?酒は飲めるか?」
「飲めます!この前仕事辞めちゃったので、大学にどうしても入り直したいと思っています。なので稼ぎたくて…」
「まあいいだろう。だがうちは完全実力主義だ…ズブな21歳でも甘くないからな…?」
「はい!ありがとうございます!」
面接の結果は合格。源氏名はユキキ(漢字表記だと幸希)となった。話によるとスターライトヘブンは闇金やマフィアのケツモチだという。どんなケツモチがいようがスターライトヘブンの運はここで尽きた。"殺戮のミミズ"と呼ばれる悪魔の公安を易々と招いてしまったから…彼は着ている黒のワイシャツにネクタイだけを巻いてヘアメイクを自分で済ませると
「お前にはヘルプから行ってもらう。ヘルプの席で名刺と連絡先交換はNGだ」
「わかりました」
ホストやキャバクラなどの商売には細かいルールがある。彼は新人ホストとしてヘルプからスタート。彼は高校時代にピザ屋でアルバイトしたことがあって接客の経験はあるがホストの接待は勿論初めてで、さらに女性との会話に慣れていない。
「颯也のヘルプだ…」
「はい」
コツコツ…
「失礼しま〜す!今日から入った新人のユキキです!」
「ユキキです!よろしくお願いします」
「ユキキ君ね?どうぞぉ~」
いざユキキの初テーブルは颯也の指名客。つまりヘルプだ。
「ユキキ君だっけ?柑橘系の良い匂いするぅ〜何使ってるの?」
「いえ…特に使ってませんけど、もしかしてシャンプーですかね?」
クンクン…
「えっ…メッチャ良い匂いする!そうだ、一緒に乾杯しよ?」
「ありがとうございます!」
ヘルプのテーブルではシャンパンが開いていた。シャンパンを飲むことは大事な仕事。
ゴクゴク…
「あら…良い飲みっぷりじゃない?もしかして強い?」
「多分強い方ですね」
「じゃあもう1杯いっちゃう?」
「大丈夫ですよ」
彼は21歳にしてかなり酒に強い。テキーラを瓶ごと飲んでもピンピンしているくらいだ。本人はその体質に悩んでいるようだが、まさか早くに役立つときが来るとは。15分後
「ユキキ!次のテーブルだ」
「はい!」
アルコール12%のシャンパンを2杯飲んだがまだ序の口だ。彼はアルコールを体内に入れていても五感を研ぎ澄ませて犯罪の匂いを探る。だが
「どこ見てるんだ?ほら行くぞ」
「すいません…」
まだ若さ故目つきのせいでうまく探れない。さて次のテーブルは?
「4番フリーのお客様だ」
「はじめまして…ユキキです!」
「はい…!?(えっ…何このイケメン!?)」
フリーのお客様は32歳の黒髪美女。
「隣失礼します…」
「どうぞどうぞ!」
女性は接待を受ける側なのに緊張している。彼の包容力と柑橘系の香りに酔いしれていく…
「ねぇ!私ユキキ君指名で!」
「えっ…?いきなりですか?」
「お願いします!ユキキ君指名させてください!」
「はいかしこまりました!(チッ…!?鼻につく野郎だなコイツは…!)」
指名をいただいたからにはここは幸人サービス。
「ちょっと待ってよ本当イケメン!」
ギュッ!
まるで可愛いペットを愛でるようにハグをする。
「お客様…よしよしです」
嬉しくなったのか彼も頭を撫でる。
「あらごめんね…取り敢えず何か飲む?」
「はい…それじゃ僕は…」
結局彼は楽しくなってしまい偵察がそっちのけに…これが悪魔の楽しむ姿なのか?延長後はシャンパンが開栓され
「前まで栄太君指名してたんだけどさ、まさか今日素敵なユキキ君に会えて幸せ…!」
「栄太君?(斉藤雪斗さんのことか…だが今はお客様も酔っている。声が漏れてしまったらマズいな…)」
「何か急に辞めちゃったみたいだからちょうど次のプリンス探してたの…今はユキキ君が私のプリンスよ!」
「プリンス…」
ゴクゴク…
閉店間際になると女性があることを言い出した。
「何かユキキ君だから話せるんだけ…ど」
「どうしました?」
「ここさ、オーナーの悠磨君いるでしょ?」
「あのお方ですね…」
「前のオーナーは和夜君って言うんだけど」
すると女性はスマホ画面を見せた。日付は約半年前。その内容は「華理州町のオーナーホスト、不審死…?」
「多分悠磨君が殺したと思うの。あいつ前々から和夜君恨んでてね…店が変わっちゃったのも悠磨君になってから」
「変わった…?」
すると女性は彼の頬にキスをして耳打ちすると
「裏社会が出入りするようになったのよ…」
「…(なるほど…)」
コツコツ…
「すいませんお客様…もう間もなく閉店になりますのでお会計お願いします」
「はいよ」
お会計金額は9万円。どうやら今回は正当な金額。
「じゃあこれでお願いね」
「ありがとうございます…」
彼は初入店で初指名、さらにシャンパンまで。
「これは私の連絡先よ」
名刺には間宮桃子とあり、華理州町の役場で働く公務員であるという。
「あなたの名前は?」
「ユキキ…」
「それ源氏名…名前よ」
「僕は水瀬幸人と言います」
「じゃあ幸人君かな?」
「桃子様の呼びたいようにお呼びください」
有力な話を得ることはできたが指名とシャンパンが嬉しくて楽しんでしまった…これはもう1日くらい必要だな。閉店してお客さんが全員帰ると
「ユキキお前ぇちょっと来い!」
「はい…」
自分はホストとして仕事をしただけ。それなのに
ドスッ…!
「お前ぇちょっとイケメンで指名貰ったからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
殴ったのは悠磨だが
ビリビリ…
「ちぃ…(何だ今の…壁殴ったみたいだ…)」
壁を殴ったような痛みに拳が痺れる。それでも悠磨が浴びせるのは罵声の嵐。やはりあの口調に執拗な嫌がらせ…桃子が言った通り裏社会と関わっているに違いない。やり返したくても今はひたすら我慢だ。
「おいやれ!」
「はい!」
ドスッドスッ…ドスッ…!ドゴン…!
奴は数人で彼を殴る蹴るのリンチを行う。ボロボロになった彼を見下ろし
「覚えとけよ…お前は所詮素人なんだよ。次はタダじゃおかねぇからな!」
「ウゥ…」
「今日はお前一人で掃除しとけ…それまで帰るな…」
彼以外のホストは締め作業を放置して店を出た。これを新人ホストの数人にやっていたのか。彼は必死で溢れ出しそうな殺意を押し殺す。
「はぁ…ミミズのままでいいかもしれない…な…」
さてやるか…彼は持ち前の精神力と責任感で店を徹底的に掃除した。テーブルの整理に床掃除、トイレ掃除…イジメられていたことを思い出す…気付けば時刻は深夜5時。あともう少しの辛抱だ…
2日後。彼はスターライトヘブンで仕事する傍ら、過去にあった出来事を調べていた。まず半年前まで和夜というホストが長年オーナーを務めており、彼のカリスマ性と人柄もあって店は大人気だった。現オーナーの悠磨は和夜に反抗するばかりで中々上に上がれず、カッとなって和夜をボトルで殴打して殺害。その後遺体はコンクリートで重石をし、海へ沈めたのだった。肝心の栄太こと雪斗だが、入った頃はまだ和夜がオーナーのときで、2人の仲はかなり良かった。だが悠磨がオーナーになると店の経営ごと塗り替え、金のためならと海外マフィアに店の債権を預ける。当然雪斗は悠磨に反抗。雪斗にも腹を立てた奴は前述でもあったリンチを繰り返し、妹の唯菜までも脅した。その後の安否は不明…だが捜査を開始して3日目の今、潰すときが来た…!
「今日も来ていただいてありがとうございます!」
「もぉ~ユキキ君は罪な男なんだから!私のハート鷲掴みよ!♡」
それなのに指名のお客様が3被り…テーブルをグルグルと回っていく。
「桃子さん!今日もありがとうございます」
「ユキキ君にどうしても会いたかった」
「お飲み物は烏龍割でいいですか?」
「うん!でもまたシャンパン入れちゃおっかな?」
彼は必死で接待をする。顔が良いだけじゃここまで指名は取れないが、彼の生まれ持ったと言える丁寧な口調が女性客の心を鷲掴みにしていた。そんな中彼に嫉妬して痺れを切らした悠磨が…
バリンッ…!
「キャー!」
「ユキキ君…!?」
彼はシャンパンボトルの殴打を諸に受ける!だが
「ハハハ…ハハハハハ…!」
「何…!?(コイツ諸に喰らったぞ…)」
「ユキキ君…?」
「化けの皮が剥がれましたね…?これで僕も心置きなく皮を剥げます…」
騒ぎを聞きつけたマフィアが彼に集まってくる。
「おやおや〜どうしたんだ悠磨?こんな奴に手こずってんのか?」
「うるせぇ!俺はもう我慢ならねぇ!ユキキを殺っちまえ!」
「皆さんは逃げてください!」
「ユキキ君…!あなたを愛してるわ…チュッ♡」
桃子は念願叶って彼にキス。
「死なないでね!」
「大丈夫ですよ…」
これで店にいたお客様は全員避難した。悠磨はどんだけ気が短くて血の気の多い奴だ…
「ユキキ…お前は調子に乗りすぎたから死刑だ」
「ほう…こんなんで僕を殺せると本気でお考えですか?」
「何言ってんだ…?これだけのマフィアを見てまだ強気でいられるとはな?」
「何か勘違いしてますね?僕に勝とうと思った時点で、君たちの負けは確定しているんですよ」
スターライトヘブン 羽太悠磨たち&海外マフィア
奴らはマフィアから調達した鋭利な武器を持っている。悠磨たちは彼のオーラに圧倒されてまずマフィアらに攻撃させる。確かに武器を扱う戦闘に加えスピードも目を見張るが
「遅すぎる…フッ!」
ドゴーン!
一呼吸で3人のマフィアを蹴り殺すスピード。彼のキックを一発受けただけで奴らの心臓は爆発音を出すかのように破裂。
「何…!?」
「どうしました?僕を殺すはずじゃ?」
挑発に乗ってあらゆる攻撃を仕掛けるも彼には掠りもしない。だがやっとの思いで切先が捉えたのは
ピリッ…
彼のワイシャツだ。そのまま一直線にワイシャツが破れ…
「…!?お前まさか…!?」
「うわぁ~…!?」
奴らは彼の身体を見て一斉に驚きと恐怖の声を上げる。
「まさか僕のことを何も知らずに…?」
「殺戮のミミズだ…!?」
殺戮のミミズとは彼の異名だ。勿論それが誰か知られているわけではなく、ここ数日で裏社会の人間たちが次々と殺される事件が立て続けに発生している。噂によるとその犯人の身体には無数のミミズが潜んでいると…彼の身体には幼少期から受けた暴力でできた凄まじいミミズ腫れが、大人になった今でも生々しく残り続けている…殺戮のミミズの残虐すぎる攻撃は留まることを知らず…
「何な…だお…は…!?」
マフィアと取り巻きのホストらは壮絶死…悠磨の歯はほぼ折られてまともに声を出せない。
「斉藤雪斗さんの場所を言え…」
「から…が…マン…」
「チッ…日本語喋れよ…!」
ドスッ…!ボキィ…!
このパンチで奴の歯がさらに折れる。痛む口を必死で動かし
「カラス街の1丁目にあるマンションだ…!ガァ…」
カラス街1丁目のマンションか…ならすぐに向かうだけだ。情報に感謝する…
バーン!
彼は冷たい表情で悠磨を射殺した。これでスターライトヘブンは閉業となり、ケツモチのマフィアも全て壊滅。彼はマンションまで最短ルートをダッシュし
ガチャガチャ…
ドアには鍵がかかっている。だが
ガチャーン!
キックすればドアなんて簡単に破壊できる。扉を開いた先に斉藤雪斗の姿はあるのだろうか?どうか無事でいてくれ…
「あぁ…」
「雪斗さん!」
何とか息はあるがいつ死んでもおかしくない状況だ…彼はすぐ救急車を手配し、そして唯菜にも連絡を入れる。その後雪斗は一命を取り留め、長期の入院にはなったが無事妹のもとへ帰ることができる。そして本来貰うはずの給料(シャンパン、ドリンクバックが全て入った)を後日幸人から受け取った。それ以降彼と会うことはなかったが、最後の言葉は
「本当にありがとう…」
だった…
数日後の8月中旬。外は太陽が照りつける炎天下、彼はスポーツジムで
「フゥ…フゥ…」
100kgのベンチプレスを連続で持ち上げる。強さを維持するには日々の鍛錬は欠かせない。ミミズ腫れは腕にも及んでいるためアームカバーは付けている。完全分離のBluetoothイヤホンは一切邪魔をならなくてトレーニングの効率をアップさせてくれる。彼の好みはJ-POP。そんな音楽を止めるかのように
ブーブーブー…
「…?」
ガシャン…ピッ…
「はい…また新たな仕事ですか?」
「あぁ…仕事だ…だが今回は殺しじゃない」
彼の上司もスターライトヘブンで起きた殺人劇を知っている。
「今回は護衛だ。くれぐれも人なんて殺すんじゃない…」
「護衛なら誤って敵を殺してしまうかもしれませんが…?どこのどなたを護衛するのですか?」
「座標を送る。そこで合流してくれ」
「わかりました」
ピッ…
彼はジムに備え付けられたシャワールームで汗を流し、そして黒ワイシャツのハイブランドスーツを着込む。
カチッ…
彼の服装の一部とも言える腕時計は絶対に欠かせない。実に腕時計は高校生の頃から常時身に付けるようになった。着替えを済ませ、彼は新たな任務であるステージに向かう…
東京都新宿区葉琉州町。最高気温35度の炎天下でハイブランドのクールビズスーツ(長袖ワイシャツ)を着こなし、腕捲くりもせず歩いている男の名は水瀬幸人。彼は21歳になり、高校在学中に国家公務員採用試験に合格し、警察学校を卒業後はかなり早い段階で何と…
ブーブー…
「はい…」
「水瀬幸人君…新たな任務だ…」
「了解しました…」
「だがな、なるべく手荒なことは避けてくれ…」
「努力しますよ…」
彼の職業は警察のエリートと言われる公安だ…そして今回与えられた任務は隣町の華理州町に置くホストクラブ、スターライトヘブン。そこに入った男性キャストが次々と行方不明になっており、一部の女性客は睡眠薬を飲まされて陵辱されたという話が出回っている。変装や潜入捜査などは公安の仕事の一つ。彼は身バレ防止のために自家用車を持たないため、移動手段は徒歩か電車、もしくはタクシーだ。理由としてはナンバーを控えられてしまう恐れがあるためだ。彼は電車で葉琉州町から華理州町まで移動し、偽名でアポを取るがまだ時間はある。華理州町を少し眺めておこう。
コツコツコツ…
真夏の大都会を歩くと生脚と生足の魅力が彼を釘付けにする。彼は高校を卒業してから恋愛をしていない。まだ21歳だから恋してみたいのも当然だろう。胸の谷間に露出されたお腹、この街以前に東京なら当たり前のファッションだ。だが街から外れそうな付近を歩いていると…
「お兄さんイケメンだね…?今ならホ別特別に1だけど?」
彼に声を掛けたのはまだ20代…いやより下に見える女性。どう見たって中学生か高校生にしか見えない。こんな年端も行かない女の子にほぼ下着に近い服装を着せて立ちんぼか?そんな幼い誘惑に引っ掛かるほど彼は甘くない。それでもここは一旦…
「いいんですか?でも1じゃ割に合わないと思いますので…3は払いますよ」
「…!?いやいや…無理しなくていいのよ?本当1でいいから!」
彼の提案に少女は唖然。それでも多く払ってくれるなら好都合…
「じゃあ近くのホテルあるから、そこでいいかな?」
「はい」
まさか誘いに乗ったのか?だが彼の裸はあまり見るべきではない。
「名前は何て言うの?」
「僕は水瀬幸人です」
「水瀬幸人…変わった名前だね?」
「そうですか?確かに水瀬も聞きませんし幸人も被ったことなかったですね」
「……」
少女は何か言いたいように口をパクパクさせている。本来風俗店で働く女性というのはお客に対してどうしても訴えたいことはないはず。彼は一瞬で強要されていることを見抜いた。歩いて5分経つと
「ここでいいかな?じゃあ1でいいから…」
少女は強引に彼の手を引っ張ってホテルに連れ込もうとしている。やはりな…
「ちょっとすいません…」
「何よ…!?」
「入らなくても問題は背後にありそうな気するんですよ…」
「えっ…」
「ほら…例えば後ろから監視ごっこしている奴とか…」
彼はゆっくりと背後に振り向くと
「何ッ…!?」
監視していた男は焦って彼の前から一目散に逃げようとするが
カチッ…バーン!
「うわぁ…!?」
「えっ…うそ…」
「紹介が遅くなりました…僕ハム(公安の隠語)なんですよ」
「ハムって…まさか公安!?」
だから銃を懐に持っていたのか。銃声は聞こえたが撃った動作が一切見えなかった。
「けど安心してください…教えたからには、あなたのこと必ず助けますから…」
「助けるって…何を?」
「取り敢えず場所移しましょう…暑いからカキ氷でも食べましょうか?」
「ちょっと待って…私稼がなきゃマズいの!」
「必要な分ならお支払いしますよ。僕といた方が安心できるでしょう?」
「…そうかもね!」
1日前。東京都新宿区華理州町に置く人気ホストクラブ、スターライトヘブン。比較的小規模だが売上はかなり好調出毎日のようにシャンパンが開く。だが最近奇妙な話が出回っている。最近入ったばかりの21歳の人気ホスト、綾辻栄太が行方不明になっていると…
「ハイ!今日も素敵な姫からボトル入りました〜!」
「そんなんじゃ足りない!タワー作っちゃって!」
「おっとここでシャンパンタワー!」
シャンパンタワーを入れた女性客は社長さんか?いかにもVIPな人だ。店を盛り上げるのはオーナーホストの羽太悠磨(30)。
「君の瞳に乾杯…」
「乾杯ッ…」
チンッ…ゴクゴク…
「もう一人隣に栄太君いれば完璧だったのにねぇ?どうして辞めちゃったのかしら?」
「あぁ〜…栄太はちょっと爆弾(業界のタブー)やらかしちゃいまして…」
「そうなのねぇ…そんなことする子じゃないと思ったのに、見損なっちゃったわ…」
ゴクゴク…
栄太の話を振られた悠磨の表情は見えないような険しい感じになり、シャンパングラスを握る手に握力が込められていく。そもそも辞めた理由に禁忌を犯したと説明しているが実際は何だ?悠磨が付いているテーブルは大盛り上がりだが別のテーブルでは…
「お願い…!もう1本だけ入れて!」
「もう私持ち合わせが…また今度入れるから…!」
「でもまた今度って来月だよね!?来月になると売上が水の泡になっちゃうんだ!だからお願い…!」
確かに水商売は売上で給料事情が変わる業界だ。給料の他No.1になりたい理由など様々だろう。今もう1本入れてくれと懇願されている女性客は丸眼鏡を掛けた少しオタクっぽい女性。数回の来店で颯也というホストに惚れ込んだようだ。数分あまり説得され続けると…
「わかった…ヴーヴイエローくらいなら…」
「いいのか!よしそうと決まれば…ヴーヴイエロー入りましたぁ!」
「あぁちょっと…」
決まるや否や何の迷いもなくシャンパンコール。女性の表情が引き攣っている。来月の給料日まで切り詰めていこう…シャンパンを入れてすぐチェックすると…
「えっ…!134万円!?私入れたの2本だけですよ!」
「ごめんなさいねぇ?颯也のサービス料今回から高くなっちゃったんですよぉ!」
「だからって134万…!?そんなお金…」
どれだけ財布を叩いても現金は17万円。そもそも2セットで4万円以内のシャンパンを2本入れたくらいならここまで金額は高くならない。
「お金…」
「あぁん!?」
「キャッ…!?」
「払えないなら身体売って稼いできてもらうしかないなぁ?」
スターライトヘブンは法外な金額を請求し、払えなければ風俗店に売るという営業を行っていた。セレブや女社長などいかにもな人間にはしないのだが、弱そうな女性ばかり狙っては繰り返している。女性客はそのまま強制的に別室に連れて行かれ…
バタン…!
店のバックヤードには顔にもタトゥーが刻まれたスキンヘッドの厳つい男。あまりの圧に身体が硬直する。すると1枚の借用書とボールペン、朱肉をテーブルに出し
「一旦はうちで払ってやらぁ。だがあんたに貸す134万だけどよぉ…利子はトゴ(10日で5割)な!」
「トゴ…!?」
「拒否権があるとかサツに言おうなんて考えるなよ?うちは海外マフィアなんでな…」
「そんな…」
お金を使い過ぎた程度なら親に頭を下げて「衝動買いした」と謝罪し、少しの援助を求めてもバチは当たらないかもしれない。だが自分はまさに裏社会のとんでもない奴と関わってしまった…
「あんたには明日から生中OKだったりア○ル○ァックOKなりして稼いできてもらう…やり方は立ちんぼでも俺たちの店でも構わねぇ…頑張って稼げよ姉ちゃん?」
どれだけ拒否をしても、嫌と訴えれば暴力を振るわれる。奴らは社会的にも、力でも追い詰めるクズ中のクズだ。
「ギャァァァ…!!」
「えっ…!?何今の声…!?」
「おっと今のは気にすんな…こっちの問題だ…」
どこの部屋からかわからないが明らかに男性の痛ましい悲鳴が耳を突いた。
「まっ…俺たちに逆らったら姉ちゃんもあれ以上の悲鳴を上げるかもな…?」
遠くからだがここまで聞こえてくるなんて壮絶な痛みであることは容易に想像できる。逆らったら間違いなく殺される…!
「じゃあ唯菜さんのお兄さんが、スターライトヘブンに?」
「そう…兄は私を養うためにホストに入ったの…自分で言っちゃ何だけど、兄は人気ホストだし稼いでるはずなのに…お金貰えてる気配もなかった」
どうやら彼は自分が望みさえすれば運が回ってくる。まさか捕まえた立ちんぼ少女の兄が面接に行くスターライトヘブンのホストだったとは。少し検索してみると「人気ホスト、綾辻栄太 失踪?」と書かれている。
「綾辻栄太が兄の源氏名よ。本名は斉藤雪斗」
少女が幸人の名前を聞いた瞬間に口をパクパクさせていたのはおそらく「兄の名前に似てる」とでも言いたかったのだろう。紹介が遅れたが今彼と話し合っている少女の名前は斉藤唯菜。15歳の中学3年生。そして兄の雪斗は20歳だ。今年の始め頃に両親を事故で亡くし、雪斗は大学を中退して稼ぐためにスターライトヘブンのホストとして働き始めた。唯菜は中学を卒業したら働くと兄に訴えたのだが、
「学費のことは兄ちゃんに任せろ」
と言われ続け、兄をずっと信じ尊敬してきた。唯菜が立ちんぼをしていたのは、何らかの理由で因縁をつけたホストたちが数人でリンチを繰り返し、唯菜の連絡先を入手すると
「兄貴を助けたければ風俗で稼げって脅されたの…」
「お話はよくわかりました。後は僕に任せてください」
「任せてって何するの?」
「実はこれから面接なんですよ。そのスターライトヘブンの」
「マジで…?」
「はい」
「ならお願い!兄を助けて…兄はお酒飲めないのに私のために頑張ってくれたの!だから助けて…!」
「Yes Mommy」
「マミー?」
彼は時々承った言葉として「Yes Mommy」と言う。特に女性からの頼みなら尚更そう答える。
「独り言です…気にしないでください」
時間がない。一刻も早く採用されてスターライトヘブンに潜入しなければ…
1時間後。
「水瀬幸人です。よろしくお願いします」
面接官はオーナーホストの羽太悠磨。見るといかにもきらびやかな男。
「水瀬幸人君、年は21歳ね?(コイツ無駄にイケメンだな…)何でホストやろうと思ったの?酒は飲めるか?」
「飲めます!この前仕事辞めちゃったので、大学にどうしても入り直したいと思っています。なので稼ぎたくて…」
「まあいいだろう。だがうちは完全実力主義だ…ズブな21歳でも甘くないからな…?」
「はい!ありがとうございます!」
面接の結果は合格。源氏名はユキキ(漢字表記だと幸希)となった。話によるとスターライトヘブンは闇金やマフィアのケツモチだという。どんなケツモチがいようがスターライトヘブンの運はここで尽きた。"殺戮のミミズ"と呼ばれる悪魔の公安を易々と招いてしまったから…彼は着ている黒のワイシャツにネクタイだけを巻いてヘアメイクを自分で済ませると
「お前にはヘルプから行ってもらう。ヘルプの席で名刺と連絡先交換はNGだ」
「わかりました」
ホストやキャバクラなどの商売には細かいルールがある。彼は新人ホストとしてヘルプからスタート。彼は高校時代にピザ屋でアルバイトしたことがあって接客の経験はあるがホストの接待は勿論初めてで、さらに女性との会話に慣れていない。
「颯也のヘルプだ…」
「はい」
コツコツ…
「失礼しま〜す!今日から入った新人のユキキです!」
「ユキキです!よろしくお願いします」
「ユキキ君ね?どうぞぉ~」
いざユキキの初テーブルは颯也の指名客。つまりヘルプだ。
「ユキキ君だっけ?柑橘系の良い匂いするぅ〜何使ってるの?」
「いえ…特に使ってませんけど、もしかしてシャンプーですかね?」
クンクン…
「えっ…メッチャ良い匂いする!そうだ、一緒に乾杯しよ?」
「ありがとうございます!」
ヘルプのテーブルではシャンパンが開いていた。シャンパンを飲むことは大事な仕事。
ゴクゴク…
「あら…良い飲みっぷりじゃない?もしかして強い?」
「多分強い方ですね」
「じゃあもう1杯いっちゃう?」
「大丈夫ですよ」
彼は21歳にしてかなり酒に強い。テキーラを瓶ごと飲んでもピンピンしているくらいだ。本人はその体質に悩んでいるようだが、まさか早くに役立つときが来るとは。15分後
「ユキキ!次のテーブルだ」
「はい!」
アルコール12%のシャンパンを2杯飲んだがまだ序の口だ。彼はアルコールを体内に入れていても五感を研ぎ澄ませて犯罪の匂いを探る。だが
「どこ見てるんだ?ほら行くぞ」
「すいません…」
まだ若さ故目つきのせいでうまく探れない。さて次のテーブルは?
「4番フリーのお客様だ」
「はじめまして…ユキキです!」
「はい…!?(えっ…何このイケメン!?)」
フリーのお客様は32歳の黒髪美女。
「隣失礼します…」
「どうぞどうぞ!」
女性は接待を受ける側なのに緊張している。彼の包容力と柑橘系の香りに酔いしれていく…
「ねぇ!私ユキキ君指名で!」
「えっ…?いきなりですか?」
「お願いします!ユキキ君指名させてください!」
「はいかしこまりました!(チッ…!?鼻につく野郎だなコイツは…!)」
指名をいただいたからにはここは幸人サービス。
「ちょっと待ってよ本当イケメン!」
ギュッ!
まるで可愛いペットを愛でるようにハグをする。
「お客様…よしよしです」
嬉しくなったのか彼も頭を撫でる。
「あらごめんね…取り敢えず何か飲む?」
「はい…それじゃ僕は…」
結局彼は楽しくなってしまい偵察がそっちのけに…これが悪魔の楽しむ姿なのか?延長後はシャンパンが開栓され
「前まで栄太君指名してたんだけどさ、まさか今日素敵なユキキ君に会えて幸せ…!」
「栄太君?(斉藤雪斗さんのことか…だが今はお客様も酔っている。声が漏れてしまったらマズいな…)」
「何か急に辞めちゃったみたいだからちょうど次のプリンス探してたの…今はユキキ君が私のプリンスよ!」
「プリンス…」
ゴクゴク…
閉店間際になると女性があることを言い出した。
「何かユキキ君だから話せるんだけ…ど」
「どうしました?」
「ここさ、オーナーの悠磨君いるでしょ?」
「あのお方ですね…」
「前のオーナーは和夜君って言うんだけど」
すると女性はスマホ画面を見せた。日付は約半年前。その内容は「華理州町のオーナーホスト、不審死…?」
「多分悠磨君が殺したと思うの。あいつ前々から和夜君恨んでてね…店が変わっちゃったのも悠磨君になってから」
「変わった…?」
すると女性は彼の頬にキスをして耳打ちすると
「裏社会が出入りするようになったのよ…」
「…(なるほど…)」
コツコツ…
「すいませんお客様…もう間もなく閉店になりますのでお会計お願いします」
「はいよ」
お会計金額は9万円。どうやら今回は正当な金額。
「じゃあこれでお願いね」
「ありがとうございます…」
彼は初入店で初指名、さらにシャンパンまで。
「これは私の連絡先よ」
名刺には間宮桃子とあり、華理州町の役場で働く公務員であるという。
「あなたの名前は?」
「ユキキ…」
「それ源氏名…名前よ」
「僕は水瀬幸人と言います」
「じゃあ幸人君かな?」
「桃子様の呼びたいようにお呼びください」
有力な話を得ることはできたが指名とシャンパンが嬉しくて楽しんでしまった…これはもう1日くらい必要だな。閉店してお客さんが全員帰ると
「ユキキお前ぇちょっと来い!」
「はい…」
自分はホストとして仕事をしただけ。それなのに
ドスッ…!
「お前ぇちょっとイケメンで指名貰ったからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
殴ったのは悠磨だが
ビリビリ…
「ちぃ…(何だ今の…壁殴ったみたいだ…)」
壁を殴ったような痛みに拳が痺れる。それでも悠磨が浴びせるのは罵声の嵐。やはりあの口調に執拗な嫌がらせ…桃子が言った通り裏社会と関わっているに違いない。やり返したくても今はひたすら我慢だ。
「おいやれ!」
「はい!」
ドスッドスッ…ドスッ…!ドゴン…!
奴は数人で彼を殴る蹴るのリンチを行う。ボロボロになった彼を見下ろし
「覚えとけよ…お前は所詮素人なんだよ。次はタダじゃおかねぇからな!」
「ウゥ…」
「今日はお前一人で掃除しとけ…それまで帰るな…」
彼以外のホストは締め作業を放置して店を出た。これを新人ホストの数人にやっていたのか。彼は必死で溢れ出しそうな殺意を押し殺す。
「はぁ…ミミズのままでいいかもしれない…な…」
さてやるか…彼は持ち前の精神力と責任感で店を徹底的に掃除した。テーブルの整理に床掃除、トイレ掃除…イジメられていたことを思い出す…気付けば時刻は深夜5時。あともう少しの辛抱だ…
2日後。彼はスターライトヘブンで仕事する傍ら、過去にあった出来事を調べていた。まず半年前まで和夜というホストが長年オーナーを務めており、彼のカリスマ性と人柄もあって店は大人気だった。現オーナーの悠磨は和夜に反抗するばかりで中々上に上がれず、カッとなって和夜をボトルで殴打して殺害。その後遺体はコンクリートで重石をし、海へ沈めたのだった。肝心の栄太こと雪斗だが、入った頃はまだ和夜がオーナーのときで、2人の仲はかなり良かった。だが悠磨がオーナーになると店の経営ごと塗り替え、金のためならと海外マフィアに店の債権を預ける。当然雪斗は悠磨に反抗。雪斗にも腹を立てた奴は前述でもあったリンチを繰り返し、妹の唯菜までも脅した。その後の安否は不明…だが捜査を開始して3日目の今、潰すときが来た…!
「今日も来ていただいてありがとうございます!」
「もぉ~ユキキ君は罪な男なんだから!私のハート鷲掴みよ!♡」
それなのに指名のお客様が3被り…テーブルをグルグルと回っていく。
「桃子さん!今日もありがとうございます」
「ユキキ君にどうしても会いたかった」
「お飲み物は烏龍割でいいですか?」
「うん!でもまたシャンパン入れちゃおっかな?」
彼は必死で接待をする。顔が良いだけじゃここまで指名は取れないが、彼の生まれ持ったと言える丁寧な口調が女性客の心を鷲掴みにしていた。そんな中彼に嫉妬して痺れを切らした悠磨が…
バリンッ…!
「キャー!」
「ユキキ君…!?」
彼はシャンパンボトルの殴打を諸に受ける!だが
「ハハハ…ハハハハハ…!」
「何…!?(コイツ諸に喰らったぞ…)」
「ユキキ君…?」
「化けの皮が剥がれましたね…?これで僕も心置きなく皮を剥げます…」
騒ぎを聞きつけたマフィアが彼に集まってくる。
「おやおや〜どうしたんだ悠磨?こんな奴に手こずってんのか?」
「うるせぇ!俺はもう我慢ならねぇ!ユキキを殺っちまえ!」
「皆さんは逃げてください!」
「ユキキ君…!あなたを愛してるわ…チュッ♡」
桃子は念願叶って彼にキス。
「死なないでね!」
「大丈夫ですよ…」
これで店にいたお客様は全員避難した。悠磨はどんだけ気が短くて血の気の多い奴だ…
「ユキキ…お前は調子に乗りすぎたから死刑だ」
「ほう…こんなんで僕を殺せると本気でお考えですか?」
「何言ってんだ…?これだけのマフィアを見てまだ強気でいられるとはな?」
「何か勘違いしてますね?僕に勝とうと思った時点で、君たちの負けは確定しているんですよ」
スターライトヘブン 羽太悠磨たち&海外マフィア
奴らはマフィアから調達した鋭利な武器を持っている。悠磨たちは彼のオーラに圧倒されてまずマフィアらに攻撃させる。確かに武器を扱う戦闘に加えスピードも目を見張るが
「遅すぎる…フッ!」
ドゴーン!
一呼吸で3人のマフィアを蹴り殺すスピード。彼のキックを一発受けただけで奴らの心臓は爆発音を出すかのように破裂。
「何…!?」
「どうしました?僕を殺すはずじゃ?」
挑発に乗ってあらゆる攻撃を仕掛けるも彼には掠りもしない。だがやっとの思いで切先が捉えたのは
ピリッ…
彼のワイシャツだ。そのまま一直線にワイシャツが破れ…
「…!?お前まさか…!?」
「うわぁ~…!?」
奴らは彼の身体を見て一斉に驚きと恐怖の声を上げる。
「まさか僕のことを何も知らずに…?」
「殺戮のミミズだ…!?」
殺戮のミミズとは彼の異名だ。勿論それが誰か知られているわけではなく、ここ数日で裏社会の人間たちが次々と殺される事件が立て続けに発生している。噂によるとその犯人の身体には無数のミミズが潜んでいると…彼の身体には幼少期から受けた暴力でできた凄まじいミミズ腫れが、大人になった今でも生々しく残り続けている…殺戮のミミズの残虐すぎる攻撃は留まることを知らず…
「何な…だお…は…!?」
マフィアと取り巻きのホストらは壮絶死…悠磨の歯はほぼ折られてまともに声を出せない。
「斉藤雪斗さんの場所を言え…」
「から…が…マン…」
「チッ…日本語喋れよ…!」
ドスッ…!ボキィ…!
このパンチで奴の歯がさらに折れる。痛む口を必死で動かし
「カラス街の1丁目にあるマンションだ…!ガァ…」
カラス街1丁目のマンションか…ならすぐに向かうだけだ。情報に感謝する…
バーン!
彼は冷たい表情で悠磨を射殺した。これでスターライトヘブンは閉業となり、ケツモチのマフィアも全て壊滅。彼はマンションまで最短ルートをダッシュし
ガチャガチャ…
ドアには鍵がかかっている。だが
ガチャーン!
キックすればドアなんて簡単に破壊できる。扉を開いた先に斉藤雪斗の姿はあるのだろうか?どうか無事でいてくれ…
「あぁ…」
「雪斗さん!」
何とか息はあるがいつ死んでもおかしくない状況だ…彼はすぐ救急車を手配し、そして唯菜にも連絡を入れる。その後雪斗は一命を取り留め、長期の入院にはなったが無事妹のもとへ帰ることができる。そして本来貰うはずの給料(シャンパン、ドリンクバックが全て入った)を後日幸人から受け取った。それ以降彼と会うことはなかったが、最後の言葉は
「本当にありがとう…」
だった…
数日後の8月中旬。外は太陽が照りつける炎天下、彼はスポーツジムで
「フゥ…フゥ…」
100kgのベンチプレスを連続で持ち上げる。強さを維持するには日々の鍛錬は欠かせない。ミミズ腫れは腕にも及んでいるためアームカバーは付けている。完全分離のBluetoothイヤホンは一切邪魔をならなくてトレーニングの効率をアップさせてくれる。彼の好みはJ-POP。そんな音楽を止めるかのように
ブーブーブー…
「…?」
ガシャン…ピッ…
「はい…また新たな仕事ですか?」
「あぁ…仕事だ…だが今回は殺しじゃない」
彼の上司もスターライトヘブンで起きた殺人劇を知っている。
「今回は護衛だ。くれぐれも人なんて殺すんじゃない…」
「護衛なら誤って敵を殺してしまうかもしれませんが…?どこのどなたを護衛するのですか?」
「座標を送る。そこで合流してくれ」
「わかりました」
ピッ…
彼はジムに備え付けられたシャワールームで汗を流し、そして黒ワイシャツのハイブランドスーツを着込む。
カチッ…
彼の服装の一部とも言える腕時計は絶対に欠かせない。実に腕時計は高校生の頃から常時身に付けるようになった。着替えを済ませ、彼は新たな任務であるステージに向かう…