フィオナの運命
太陽が真上に登ると、大きな木の下でしばし馬を休ませる。

「アーサー、お水を飲んでね。カイルも」

フィオナはルシアスにも、カップに注いだ水を差し出した。

「ルシアス様、どうぞ。果物とパンとチーズもありますから」
「ありがとう」

木陰に座って、二人は草原を眺めながら静かに語らう。

「この国はこんなにも広かったのですね。わたくし、ずっと生まれ育った村から出たことがなかったので、外の世界をまるで知りませんでした」
「そうか。王宮の北側はこんなふうに豊かな自然が広がっているが、南には街が栄えている。きれいな洋服や家具なども売っているぞ」
「まあ! 野菜や果物しかない村の市場とは、随分違うのですね。どんな家具なんでしょう。ランプとか、織物も?」
「ああ。それに宝石や髪飾りも売っている。フィオナ、帰ったらそなたに似合うドレスと宝石をすぐに選ぼう」
「ええ!? まさかそんな。村娘がそんな装いをするなんて、おかしいですから」
「俺の隣に立つにはおかしくない」

あ……と、フィオナは自分の服装に視線を落とす。

国王と並んでいる自分が、酷くみすぼらしく思えた。

「すみません、こんな格好で……」
「ん? なにを勘違いしている。そなたには美しいドレスと最高級の宝石が似合うだろうな。好きな色はあるか? 好みの宝石は?」
「いえ、あの、まったく思いつきもしません」
「そうか。それなら俺に選ばせてほしい」
「そんな、あの。本当にわたくしには、身分不相応ですから」

フィオナが必死に首を振ると、ルシアスはポツリと呟く。

「……俺の隣に立つと言ったのに、通じなかったか」
「はい? なにかおっしゃいましたか?」
「いや、なにも。だが全て片づいたら、その時は嫌というほど分からせてやる」

ルシアスは、急に不敵な笑みをフィオナに向けた。

「あの、ル、ルシアス様? わたくしなにか、ご無礼を?」

怯えたように仰け反るフィオナに、ふっと笑みをもらしてひとりごちる。

「まだ早いか。じっくり時間をかけなければな。その為にも、俺はずっとフィオナのそばで生き続けたい」

顔を上げると、真っ直ぐにフィオナを見つめた。

「フィオナ。そなたの祖母が命を分け与えてくれなければ、俺は今頃この世にはいなかった。今生きている俺の命の半分は、彼女の命だ。それに恥じぬよう、俺は最後まで諦めない。フィオナ、どうか力を貸してほしい」

フィオナは決意を込めた真剣な眼差しで、ルシアスに頷いてみせる。

「はい。なにがあっても諦めず、必ずやルシアス様にかけられた呪いを解いてみせます。おばあ様の為にも、必ず」
「ああ。頼む、フィオナ」

二人はしっかりと頷き合う。
言葉にはしない、同じ想いを胸に噛みしめながら。

――なにがあっても自分が守ってみせる。この命に代えても――
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