フィオナの運命
「綺麗な月ですね。昨日までの出来事が、まるで遠い昔のことのように感じます」

そう呟いて夜空に見入るフィオナの横顔を、ルシアスはそっと見つめる。

穏やかで優しい微笑みを浮かべたその横顔は美しく、どこか儚げだった。

昨日までのことを、ルシアスも心の中で思い出す。

あんなにも危険な目に遭わせてしまったことに、今更ながら心が傷んだ。

「フィオナ」
「はい」

フィオナはルシアスに向き直り、澄んだ瞳で真っ直ぐにルシアスを見つめた。

耳元でキラリと星の輝きのようにイヤリングが揺れ、フィオナの美しさを引き立てる。

ルシアスは思わずフィオナに見とれてから、ゆっくりと口を開いた。

「フィオナ。俺はそなたのおかげで命を救われた。そなたがいなければ、今俺はこの世にはいない。この命は、そなたが己の力を全て注いで分け与えてくれたもの。それを片時も忘れず、この先の人生を、そなたを幸せに守る為に生きよう。聖なる山の神とそなたの祖先にも、そう誓った。だからフィオナ」

そこまで言うと、ルシアスはそっとフィオナの手を取り、その場で片膝をつく。

「ルシアス様、なにを……?」

驚いたフィオナは、慌てて自分もひざまずいた。

「フィオナ、どうか俺と結婚してほしい」

ハッとして息を呑んだフィオナは、信じられないとばかりに目を見開く。

「まさか、そんな。ルシアス様、一体なにを……」
「俺では、だめか?」
「いえ! あの、わたくしではだめです」
「なぜだ?」
「なぜもなにも……。わたくしは村娘で、あなた様は国王陛下であらせられますから」
「だから?」
「だ、だから!?」

当然のことをどう説明すればいいのかと、フィオナは必死に頭を働かせた。

「畏れながら国王陛下のお妃様となられるお方は、どこかの国の由緒正しき王女様でございます」
「そんな法律あったか? 結婚は、愛する人とするものだろう」
「ええ。ですから愛する王女様と……」
「俺はフィオナを愛している」
「はい!?」

フィオナはもはや涙目になり、懸命に頭を振った。

「ルシアス様、ご冗談はここまでにしてくださいませ。わたくし、これ以上はもう……」
「冗談など、なに1つ言っていない」

ルシアスはフィオナの頭に手を置くと、優しくその瞳を覗き込んだ。
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