雨の日が苦手だった、私たちは
 まだ何か言いたげだったが、萌衣は台帳を近くの棚に置いてすぐに部屋を出た。急ぎ足で若井のもとへ向かう。

 初めて、西に言い返した。
 急いで歩いているからか、それとも先ほどのやりとりを思い出したからか、胸がどくどくと脈打っている。

 
(大丈夫だよね? 私、間違ったこと、言ってないよね……?)


 西を前にすると、途端にうまく考えられなくなってしまう。

 前回は高瀬が助けてくれた。
 でも、そうやって必要以上に頼ってはいけないから——。

 
(うん。高瀬さんがいなくても、もう大丈夫なはず)

「……朝比奈さん、タクシー捕まりました! すみません、傘ありましたか?」


 オフィス前でタクシーを捕まえた若井が、こちらに向かってぶんぶんと手を振っている。

 
「あったよー! ごめんね、遅くなっちゃって。ありがとう!」
 
 
 急いでタクシーに乗り込み、二人で都内の商談先へと向かう。
 タクシーに乗り込んだ直後、社用スマホがブルッと震えた。『誰だろう?』と思い確認すると、送り主は高瀬だった。


『今日は若井の訪問同行だったよな。何か困ったことがあれば、いつでも連絡してくれ』

 
 その文面を見て、胸の奥がじんと熱くなった。

 正直、若井との訪問はかなり緊張していた。
 営業一年目の若井と、異動して数ヶ月の萌衣という、どちらもまだこの部署の業務に慣れていない。

 でも、社歴だけで見れば、萌衣の方が圧倒的に先輩なのだ。自分がしっかりしなければと言い聞かせていた。

 そのタイミングでの、高瀬からの連絡だった。
 その場に彼がいなくても、何かあれば助けてくれる気がした。それはまるで、お守りのようだと思った。


(高瀬さんがいなくても、もう大丈夫だと思ってたのに……)
 
 
 胸を掴まれたようで、離れられない。
 やっぱり、萌衣の中で高瀬の存在は大きいままだった。



 

 商談の場に同席すると、若井は高瀬とは違った形で、先方の心を掴んでいるように感じた。
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