雨の日が苦手だった、私たちは
 以前は高瀬のことを悪く言う人もいたけれど、最近ではそれもあまり聞かなくなっていた。代わりに聞くのは、「高瀬さんは社長の娘とお見合いをするらしい」という噂ばかりだ。

 お見合い話を聞く度に気が滅入るけれど、こうして彼を慕う人が増えていくのは嬉しいし誇らしい。

 少し視線を上げると、雲の隙間から太陽が差し込んでいた。

 本当に、天気の移り変わりが激しい。
 さきほどまでの雨が嘘のようだ。

 空が明るくなってきても、胸の奥のざわつきはすんなり消えてくれなかった——。


***


(……最近、高瀬さんが仕事をふってくれない)


 以前「朝比奈は、若井のサポートをしてくれればいいから」と言われて以来、さらに彼は仕事を抱えるようになってしまった。

 一度拒まれてしまったから、そう何度も「仕事を振ってください」と言うこともできない。
 

「あの、朝比奈さん。これ確認しても良いですか?」
「あ、うん……もちろん」
「すみません、朝比奈さんに頼ってばかりで」
「ううん、気にしないで」


 そう言って、若井と一緒にパソコン画面を確認する。
 ひと通り修正箇所の確認を終えて、体の向きを変えようとした時、ちらりと盗み見るように高瀬の様子を伺った。


(高瀬さん……ちょっと顔色が、悪い?)


 ほんの少しの変化だけれど、萌衣は見逃さなかった。

 
(コーヒーを淹れて休憩を促すか、こっそりチョコを渡すか……それとも、何か仕事を奪い取る? でも、それはさせてくれなさそうだし)


 以前はお弁当まで作っていたというのに、今ではコーヒーを淹れることさえ躊躇ってしまう。ここ最近の高瀬のよそよそしさに、萌衣もどう接すれば良いのか分からなくなっていた。

 距離感には気をつけている。
 お見合い前に、変な噂が立つのはまずいと思うから。

 でも高瀬の方が、仕事を振ってこなかったり、視線が全く合わなかったりと、必要以上に萌衣を意識しているように感じた。
< 104 / 134 >

この作品をシェア

pagetop