雨の日が苦手だった、私たちは

(キスしたことで、仕事がしづらくなっちゃってるのかな。もう気にしてないのに……。やっぱり、みんなのお茶を淹れにいこう。若井くんの分も)


 萌衣は立ち上がり、給湯室に向かった。
 萌衣と高瀬の分はブラックコーヒーを、若井にはホットティーを用意した。トレーに乗せて、自分の席に戻ると、最初に若井にお茶を渡した。


「若井くん、良かったらこれ飲んで」
「わぁ、ありがとうございます。ちょうど休憩しようと思っていたので、助かります」
「いいえ。それと……」


 高瀬の方を向き、こっそりチョコを添えて渡す。


「高瀬さんも、コーヒーどうぞ」
「……あぁ、ありがとう」


 チョコがあるのを見て、一瞬目を大きく開いたような気がした。
 高瀬はそれを食べずに、コーヒーに口をつける。食べてはくれないか、と思ったのも束の間、高瀬はチョコをさっと口に含んだ。

 ほんの少し、頬が緩んだ。
 きっと、萌衣以外に気づいた人は誰もいないだろう。それを見て、萌衣が抱えていた緊張もふっと緩んだ。


「朝比奈さん、紅茶美味しいです! ありがとうございます!」


 後ろから若井の声が飛んできて、萌衣はすぐに振り返る。


「ううん、少し休憩になったかな」
「はいっ、何か甘いものが食べたくなりますね。あとで買ってこようかなー……」
「あ、それだったら……これ」


 以前、お客さんからもらったクッキーを渡した。すると、若井の顔がぱっと明るくなった。


「朝比奈さん、ありがとうございます!」


 それを見て、萌衣はふふと笑みを浮かべる。
 こっそり食べる高瀬と、素直に喜ぶ若井。二人が対照的で、なんだか面白いなぁと思ってしまった。
 この様子を後ろから見ていた高瀬が、ぽつりと呟いた。


「……お前たち、お似合いだな」


 突然の言葉に、時が止まったようだった。
 若井も「え?」と小さく首を傾げている。

 今の言葉を真に受けてしまっては、自分の中で押さえていた何かが崩れてしまいそうだと思った。萌衣は、無理やり笑顔を作った。
< 105 / 134 >

この作品をシェア

pagetop