雨の日が苦手だった、私たちは

「もう、高瀬さん、からかわないでください」
「……そ、そうですよ! お似合いだなんて……朝比奈さんはすごく素敵な先輩なので、俺じゃ恐れ多いです」


 はは、と笑う二人に対して、高瀬は真顔のままだった。口にはしなかったけれど、『いや、俺は真面目に言ってる』と顔に書いてある。
 そのまま彼は机の上にある書類に視線を落とし、何かを考えるように口を結んでいた。

 何も返してもらえないと、二人して「はは……」と困ったように笑うしかなく。

 その後、萌衣が若井と給湯室に行くと、若井はしゃべりたくて仕方がないと言わんばかりに口を開いた。


「……朝比奈さん! なんか、今日の高瀬先輩、変じゃないですか?」
「え、変?」
「はい、だって冗談も通じないですし、真顔で怖いというか……俺、高瀬先輩の営業に同行したことがあるんですけど、相手が冗談を言った時はうまく返して、場を和ませるんですよ」
「うん……高瀬さんなら、そうだろうね」


 萌衣が感じていた違和感を、若井もしっかり感じ取っていた。焦っているような様子を見ると、本当に心配をしているのだろう。


「それに……最近の高瀬さん、ちょっと調子が悪そうですよね?」
「……若井くんも気づいた? 今日、顔色が悪いかなと思って」
「あ、いや、今日体調が悪いことには気づいてませんでした。……最近、俺が朝比奈さんに頼りっぱなしだからかもしれませんが、結構仕事を抱えているような気がして。この前、外回りに出る直前、コピー機のところに高瀬さんの書類があったので、急いで追いかけたんです。あの高瀬さんが忘れ物をするなんて、珍しいなと」
「それは確かに、かなり珍しいかも……」


 二人で「うーん」と考え込んでしまい、給湯室が静寂に包まれる。
 事務仕事を引き受けようとしたら、高瀬からは「若井のサポートをしてくれれば良いから」と断られてしまった。こちらが手をつける前に、先回りして仕事を終わらせていることも多くなった。

 そして、今日言われた言葉を思い出し、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
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