雨の日が苦手だった、私たちは

「……はい! ありがとうございます。それでは、お先に失礼しますね」


 デスクを離れる直前、萌衣はもう一度高瀬の方を向き、二人にしか聞こえないくらいの小さな声で話しかけた。


「……高瀬さん、体調が悪いなら、無理しないで早く帰ってください」
「……え? 俺、体調悪そうか?」
「自覚なかったんですか? 顔色悪いです。この前はコピー機に書類忘れてたって、若井くんも心配してましたよ?」
「はは、自覚がないって、前の朝比奈みたいだな」


 そう言って笑う顔を見て、萌衣の胸はとくんと小さく脈打った。笑顔を久しぶりに見たからだ。

 最近は、突き放されているように感じることが多かった。かと思えば、「何か困ったことがあれば、いつでも連絡してくれ」と言ってくれた。

 高瀬の言葉や行動に、一喜一憂してしまう。
 どう接すれば良いのか、萌衣はもうよく分からなくなっていた。


「……それでは、お先に失礼します」
「あぁ、お疲れ様」


 高瀬を残し、萌衣は三人と合流した——。





 柳を先頭に、辿り着いたのは会社近くの大衆居酒屋だった。

 個室に通され、座席は掘りごたつのようになっている。高瀬と行った、山見の会食を思い出した。あの時に行ったのは小料理屋というか、もう少し高級感があったけれど。
 もちろん、こういう気安い雰囲気で飲める場所も好きだ。

 ビールジョッキが四つ並び、みんなで早速手に取る。安藤が高らかに声を上げた。

 
「それじゃあ、今日もお疲れ様でした〜! かんぱーい!」
「乾杯!」
 

 グラスが当たって、カチンと良い音が鳴る。
 安藤の飲みっぷりも良いが、それ以上にぐいぐいと飲み進めたのは石原の方だった。


「石原さん、結構ペースが早いですね。会食とかで飲み慣れているからですか?」
「はい、それもありますね! まぁ、元々お酒も強いので。無理に飲まされたりすることも無いんですけど、お互い飲んでいた方が会話が弾む場面もありますからね」
「なるほど。お酒が飲めるって良いですね」
「飲めないとこの仕事はキツイかもしれないですねぇ。ちなみに、朝比奈さんはお酒飲めるんですか?」
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