雨の日が苦手だった、私たちは
「えっと……分からないです」
高瀬がまだ昇進していない理由を、萌衣は知らない。
あれだけ結果を残しているのだ。あとは時間の問題というか、課長のポストが空いていないとか、そういうことかと思っていた。
萌衣が首を傾げると、安藤はもったいぶるように言った。
「じゃあ、石原くん。高瀬くんが昇進していない理由は何でしょう」
「えー俺ですか? そうですね……上が詰まってて、課長のポストが空いていないとか」
萌衣が考えていたことと、同じことを石原が言う。安藤は人差し指を立てて振り、「違うんだな〜」と笑いながら言った。
「それじゃあ、柳ちゃん。答えをどうぞ」
「そうですね。高瀬さんは仕事ができますけど、営業事務がこれまで何人も辞めています。優秀であることは誰もが認めますが、マネジメント面で上は慎重に見ていたのかもしれません」
「正解。今では朝比奈ちゃんがついて、さらに成果はうなぎ登り〜。だから、高瀬くんが昇進するのもすぐだろうね」
それを聞いて、萌衣は「なるほど……」とほっと胸を撫で下ろす。
異動したての頃、「足を引っ張らないように頑張らなきゃ」と思っていたけれど、それはちゃんと出来ていたのだと知る。
安藤は焼き鳥を食べながら、「あぁ、」と思い出したように呟いた。
「課長どころか次期社長だよね〜! 社長令嬢とのお見合いも本当みたいだし」
次期社長、という言葉がずしりと重くのしかかる。
萌衣は日々、目の前の仕事を通して「高瀬の役に立てて嬉しい」と思っていた。
なのに、高瀬はもっとずっと先を見て仕事をしているのだ。近づいたと思ったのに、まるで違う場所にいたのだと思い知らされる。
「……朝比奈さん、顔色悪い気がします。大丈夫ですか?」
「柳さん、すみません……大丈夫です……」
「朝比奈ちゃんはさ、本当に優しくて良い子だから、高瀬くんに対する不満とか抱えてないか心配だったのよ。最近じゃ、新人の若井くんもフォローしてるでしょ?」
「……私、優しくもないし、良い子でもないです」