雨の日が苦手だった、私たちは

「朝比奈ちゃん……」

 きゅっと拳を作り、体に力が入る。

「良かれと思って動いているのに、誰かの邪魔をしている気がして……最近、それが怖いんです」 
 
 自分の優しさは、必ずしも、その人のためになっているわけではなかった。西の件も然り、最近では若井も。彼の成長の機会を奪っていたかもしれない。それを教えてくれたのは、高瀬だった——。


「……ごめんなさい、飲み会をこんな雰囲気にするつもりじゃなくて、」
「ううん、良いのよ。でも、私は朝比奈ちゃんの優しさに救われることがあるわよ?」
「え……?」
「俺もです。外回りから帰ってきて、雨に濡れて困ってる時も、ハンカチを貸してくれたり」
「私もありますよ。朝比奈さんの歓迎会の時だって、迎えられる側なのに一緒に動いてくれて、本当に助かりました。備品が足りない時も、代わりに手配してくれたり」


 三人の笑顔が、萌衣に向けられる。

 自分の気遣いや優しさが、独りよがりだったんじゃないかと不安になっていた。でも、萌衣の小さな積み重ねは、三人もちゃんと見てくれていた。

 それが分かって、萌衣の目頭がじわと熱くなる。せっかくの飲み会の場を、湿った空気にしたくない。でも——。


「朝比奈ちゃん、いつもありがとう」
「え……」
「朝比奈ちゃんの優しさに助けられてる人は、たくさんいる」
「そう、でしょうか……」


 そのひと言に、優しく包み込まれた気がした。
 気づけば、視界が滲んでいた。瞬きをするたびに、涙が落ちていく。

 その様子を見て、三人は特に驚くこともない。この部屋だけが、温かい空気に包まれているような気がした。


「……っ、すみません、こんなところで泣いてしまって」
「ううん、良いのよ。溜まってるものがあったら、全部吐き出しちゃいましょう。もちろんみんな、他言無用よ?」
「もちろんです」
「言うわけないじゃないですか」


 それから、異動したての頃に総務の仕事を振られて高瀬に助けられたこと、最近の若井の商談での失敗など、話せる範囲で打ち明けた。
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