雨の日が苦手だった、私たちは
「うん。数字重視で合理主義の高瀬くん。普段、感情は切り離してるでしょう? 感情を後回しにすると、大事なものを見落とすことがあるから」
「……なるほど。大事なものを見落とす、ですか」
「あはは、そうだよねぇ。その反応、高瀬くんらしいね」
張り詰めていた空気が、安藤の笑い声で一気に緩んでいく。
安藤はふいに手をあげ、「それじゃ! 私帰るね〜お疲れ様〜!」と言って、軽やかに帰ってしまった。ヒール音が、どんどん遠くなっていく。
「……あと少しやるか」
ぽつりと呟いてぐっと伸びをしてから、自販機のコーヒーを買いに向かった——。
***
空は快晴、雲ひとつない青空が広がっていた。
高瀬はこの日、濃紺のスーツに白いシャツ、ワインレッドのネクタイという装いだった。社長の東雲に指定された料亭へと向かっている。
でも、足取りはどこか鈍かった。
明確な答えを出せていないからかもしれない。
(……今の仕事は面白いし、今後も結果は残していきたい。社長の器じゃないと思ってはいたが……そもそも、俺は社長になりたいのか?)
打ち込めば打ち込むほど、結果が数字となって現れる。それは高瀬にとって、心地よいものだった。
でも、昇進のために結婚するのかと問われると、しっくりこない。考え事をしながら歩いている間にも、あっという間に料亭の目の前についてしまった。
石畳を歩いた先に小さな看板が出ているだけで、それ以外に『料亭』であることを示すものはない。低い建物に、入り口は木の格子戸、白い土壁と、昔ながらの造りに自然と背筋が伸びた。
「数寄屋造り、か」
今日ここに来たのは、お見合いを前向きに進めるためではない。
むしろ、今回の話は断ろうと思っていた。
昇進云々は置いておいて、自分に気持ちが無いのに受けるのは、違う気がしたからだ。