雨の日が苦手だった、私たちは
(……あれだけ、感情は面倒なものだと思っていたのに)
お見合いのことを考えると、朝比奈の顔が浮かんで、どうしても踏み切れなかった。こんな中途半端な気持ちで、これ以上話を進めるのは違うと思った。
格子戸を開けると、流れるように個室に通される。そこには、着物姿の東雲サエが座っていた。
「あら、高瀬さん。早かったですね」
「いえ、むしろお待たせしてしまって、すみません」
「いいえ、私が勝手に早く来ただけですので。それでは、早速ご飯をいただきましょうか」
サエの言葉を合図に、お膳が運ばれてくる。
寄せ豆腐や茶碗蒸し、お造り、だし巻き卵など……シンプルな素材ながらも、味わいは一流だった。さすが、東雲が選んだ料亭だ。きっと、懇意にしている店のひとつなのだろう。
「それで、高瀬さん。先日の件は前向きに考えていただけそうですか?」
ほとんど食べ終わったところで、今日の本題に入る。
目の前には、お茶と羊羹があった。ふと、朝比奈が金沢のコンビニで買ってくれたきんつばを思い出して、口元が緩んだ。
「……高瀬さん、羊羹がお好きなんですか?」
「はい。お酒は苦手ですが、甘いものが好きで」
「そうだったのですね。でしたら、お菓子の贈り物でもすれば良かったわ」
ふふ、とサエは上品に笑う。
羊羹を食べて朝比奈のことを思い出していた、とはさすがに言えなかった。
「……それで、先日の件ですが。今回のお話はお断りさせていただきたく、本日伺いました」
「それは……なぜでしょうか?」
「中途半端な気持ちでお受けするのは、違うと思ったからです。私は……中途半端な気持ちで接して、もう誰かを傷つけたくない」
「なるほど……確かに、以前『好きな人と結婚しなくて良いのか』と聞かれた時点で、難しいのかなとは思っていましたけれど」
サエは驚くでも悲しむでもなく、冷静に受け止めていた。