雨の日が苦手だった、私たちは
『数字重視で合理主義の高瀬くん。普段、感情は切り離してるでしょう? 感情を後回しにすると、大事なものを見落とすことがあるから』
ふと、安藤の言葉が頭をよぎる。
後回しにしていた感情を、今だけ最優先にしてみたら。大事なものは、たった一つだけだった。それは――。
(朝比奈……)
朝比奈を好きだ、という気持ち。
本当は、早くそれを受け入れるべきだった。
そうしたら、勝手にキスをして、傷つけるようなこともなかった。
「高瀬さん?」
「あ、すみません、考えごとをしていました」
「でも、私もその女性に会ってみたいわ。ぜひ友達になってほしい。私の周りには、そういう優しい女性はいないもの」
「そうですか。きっと彼女なら、東雲さんともすぐ仲良くなれると思います」
結局、お見合いの話はなくなったものの、終始和やかな会だった。
今回の話を断ったことで昇進が不利になるとか、そういったことは絶対にないようにすると言ってくれた。
先に料亭を出て、すぐにある番号に電話をかけた。
――ツーツー
「留守か……いや、土曜日に社用スマホに電話しても、すぐ出るわけないよな。プライベートの番号は知らないし……」
朝比奈に電話をかけるも、無機質な音だけが耳に届く。その手は、すぐさま別の電話番号をタップしていた。
『はい、安藤です。高瀬さん、何かありました?』
「安藤さん、すみません休日に。今急いでいるんですけど、朝比奈が電話に出なくて。彼女のプライベートの連絡先を知りませんか?」
『あー……前に携帯番号は聞いておいたんですけど。って、今日は朝比奈ちゃん、実家に帰ったんじゃなかったかな』
「実家……?」
実家というワードに、つい思考が停止してしまう。電話越しの安藤は「あはは」と笑って、それ以上詳しくは話さなかった。
『まぁ、直接連絡してみたら良いんじゃない?』
「すみません、すぐ電話番号を教えてもらって良いですか? 事情は自分から話すので」