雨の日が苦手だった、私たちは
『高瀬です。多分、朝比奈の実家の前に着いたと思うんだけど……少し話せるか? 休日に悪い』
「いえ、大丈夫です」
リビングの方を見ると、父はいびきをかいて寝ている。杏奈はアルバムを一生懸命見て、結婚式で使う写真を今から選んでいるようだ。
今のうちに、さくっと話してきてしまおう。そう思い、萌衣は急いで靴を履いた。
扉を開けると、そこには私服姿の高瀬が立っていた。
「高瀬さん……! 本当に来てくださったんですね!」
「あぁ、悪い。急に押しかけて」
「あの……私、何かやらかしました?」
「いや、仕事の話じゃなくて」
高瀬は視線を落とし、目が合わない。いつも迷いがないのに、今日はなぜか歯切れが悪い。仕事の話じゃなければ、一体……?
「……朝比奈に、会いに来たんだ」
その言葉に、思わず息が止まる。
でも、その言葉にどんな意味が含まれているのか、まだ分からない。
「どういう、意味ですか……?」
「この前は、勝手にキスして悪かった」
「……」
「朝比奈に『悲しい』って言われて、自分がどれだけ勝手なことをしたのか、後悔してた。朝比奈の気持ちも考えずに押し付けて……。
でも、他の男に笑顔を向けているのを見て、湧き上がった仄暗い感情が受け入れられなくて……。結局、ずっと逃げてたんだって分かった」
高瀬が顔を上げる。澄んだ瞳が、真っ直ぐこちらを捉えた。
「朝比奈のことが、好きなんだ」
その言葉に、萌衣は驚いて声も出ない。代わりに息だけが漏れて、慌てて言葉を探す。
「え、待ってください。高瀬さんお見合いしてたじゃないですか」
「お見合いはさっき断ってきた」
「それで良いんですか……? だって、もしかしたら社長になれるかもしれないんですよね? 出世するんだったら」
「お見合いだけが出世の道じゃない」
ぴしゃりと、迷いなく言葉が返ってきた。