雨の日が苦手だった、私たちは
 高瀬が一歩前に踏み出し、距離が縮まる。
 目が離せない。彼の目を見れば分かる、これは嘘じゃないって。


「……確かに、以前の俺ならお見合いも受けていたかもしれない。特に結婚に対してこだわりもなかったからな。でも、本当にそれで良いのかと自分に問いただした」


 いつの間にか腕を取られ、萌衣は高瀬の腕の中におさまっていた。どくどくと、心臓の音が耳の奥で響いてうるさい。

 でも、まるで雨の日のように、二人の間にはしんとした静けさが落ちていた。


「朝比奈と出会う前は、感情なんてわずらわしいものだと思ってた。実際、朝比奈の行動を見て『なんでそんな非効率なことをするんだろう』とも思ってた」


 当時のことを思い出しているのか、高瀬はくすりと小さく笑った。


「……だんだん、朝比奈と過ごす時間は『落ち着かないな』と思うようになったんだよな」
「……それって、わずらわしいってことじゃないんですか?」


 萌衣はむすっと膨れて、拗ねたように言う。
 高瀬の腕の中でその顔をしているけれど、どうやら声で伝わったらしい。高瀬は笑った。


「いや、そういうことじゃないよ。自分の感情とか変化が頭では整理しきれてなくて、それで落ち着かなかったんだろうな。心は動いてるけど、頭が追いついていないというか」
「……じゃあ、もう、わずらわしくないですか?」
「あぁ、一緒に過ごしてると、心が温かくなる瞬間もあって。今では、朝比奈と一緒にいる時間が心地良い。他人の感情もノイズじゃなくて、風景みたいに捉えられるようになった。それで……朝比奈の答えは?」
「え?」
「告白の返事」


 高瀬の体が少し離れ、目が合う。
 彼の自信のなさそうな顔は初めて見た。萌衣も、自分の気持ちを大事にしたい。

 いつも周りのことばかり気にかけて、自分の気持ちは後回しにしてきたけれど。


「私も、高瀬さんのことが好きです。それも、結構前から……」
「結構前?」
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