雨の日が苦手だった、私たちは
「はい。でも、お見合いの話も聞いていたので、この気持ちには蓋をしようって。そんな時に旅館でキスされて、でもごめんって謝られて……。高瀬さんは好きでもない人にキスをするんだって」
「そうか……。やっぱり、俺が感情任せに動いたから、朝比奈に悲しい思いをさせたんだな。あの時は本当に悪かった」
しゅんと落ち込む高瀬を見て、萌衣は彼の顔を覗き込んだ。
「あの……高瀬さんが好きという気持ちは、変わっていません。だから……」
「萌衣」
「……! ひゃいっ」
笑顔を見せた高瀬は、そのまま萌衣に触れるようなキスをした。
名前を呼ばれて驚いている隙をつくように唇が重なり、一瞬何が起きたのかと萌衣は目を瞬かせた。
「ははっ」
萌衣の顔を見て、高瀬は明るく笑った。
もう日が落ちかけて夕方だというのに、彼の笑顔はまるで太陽のようだと思った。
***
その後、「親御さんにご挨拶してすぐ帰る」と言った高瀬を引き止めたのは、母と杏奈だった。
高瀬が現れた途端、母は「あら〜イケメン!」と絶賛し、杏奈も「うわ、すっごいイケメン。一緒にご飯食べてもらったら良いじゃん!」と半ば強引に勧めてきた。
高瀬は戸惑いながらも、萌衣にしか聞こえないほどの小さな声で言った。
「……せっかく家族水入らずの時間なのに、俺まで参加して良いのか?」
「良いんです。母も妹もあの状態なので……。それより、高瀬さんはお時間大丈夫ですか? 何か予定があったり……」
「高瀬じゃなくて、陽って呼んでくれないの? 萌衣」
ふいに甘さを含んだ声で「萌衣」と呼ばれてしまい、萌衣はなんとか絞り出すように声を出した。
「陽さん……で、いいですか……?」
「まぁ……それでもいいか」
「急に変わりすぎじゃないですか?」
「あーそれでいうと、自分から本気で好きになって付き合うのは初めてだから、自分でもどう変わるのか分からない」
「えぇっ……!?」
愉快そうに笑う陽は、萌衣の驚きに答えることなく、早速父の晩酌に付き合っていた。もちろん、陽はお酒を飲めないので、炭酸水で参加だ。
萌衣の父は、残念そうに声を漏らした。