雨の日が苦手だった、私たちは
お互いの知らなかった一面
「高瀬さん、ブラックコーヒー飲みますか?」
「……え、良いの?」
画面に視線を向けていた高瀬の目が、こちらに向けられる。
一瞬、言葉を選ぶような間があった。余計なことをしてしまっただろうか……。
「はい、あ……高瀬さんのために淹れたというより、自分のコーヒーを淹れたからついでに持ってきたんです。もし要らなければ言ってください。無理に飲まなくて良いので、」
「いや、いるよ。ありがとう」
そう言って、高瀬は萌衣から出来立てのコーヒーを受け取った。受け取るとすぐに、コーヒーを口に含む。
その瞬間、高瀬を取り巻く空気が、ふっと緩んだような気がした。
二人の『仕事ではない会話』は、続いていく。
「ん、美味い。朝比奈って、コーヒー淹れるのが得意なのか?」
「ふふ、ドリップコーヒーだから得意も何もないですよ〜。高瀬さん、いつもブラックでしたよね?」
「あぁ、よく知ってたな。朝比奈がいると、悪いことが出来ないな」
「それって、私が見てるからですか? 高瀬さん、悪いことするイメージないです」
こういう冗談も言うんだ、と少し驚いた。
高瀬との会話は、いつも無駄が削ぎ落とされていたから。
コーヒーをデスクに置いた高瀬が、「んー」と伸びをしてオフィスチェアの背もたれに寄りかかった。
随分と凝り固まっていそうで、なんだか肩を揉んであげたくなってしまう。『肩揉み、田舎のおじいちゃんによくしてあげていたなぁ』と、高瀬の様子を微笑ましく見守った。
姿勢を正した高瀬が、何かを思い出したように萌衣に話を振った。
「そういえば、来週のカレンダーに入ってるメーカーとの打ち合わせ、朝比奈も一緒に行ける?」
「え、訪問ですか? 事務の人が行っても良いんですか?」
「あぁ、うちは結構、営業事務も営業に同行してたりするよ。もし良ければだけど」
「ぜひ……! 行きたいです」
萌衣は前のめりで答えた。
総務にいた頃はそういう機会もなかったから、自分の仕事の先にどんな人がいるのか知れるのは、業務にもプラスになりそうだ。