雨の日が苦手だった、私たちは
その翌週、萌衣は高瀬の営業に初めて同行した。
そのメーカーはやり取りの多い取引先で、いつも電話でやり取りをしている担当者や社長と、ようやく顔を合わせることができた。
営業時の高瀬は、オフィスにいる時よりもさらに柔らかい笑顔を見せていた。
「山見社長、営業事務を担当している朝比奈です」
「初めてお目にかかります。東雲商事の朝比奈です。いつもお世話になっております。本日はよろしくお願いします」
「おお、いつも対応して下さっている朝比奈さんですね! YAMAMIメーカーの山見です。よろしくお願いします。それにしても高瀬くん、朝比奈さんが入って随分仕事しやすくなったんじゃないですか? 本当に良かったですね〜」
にこにこと朗らかな笑顔を見せる山見は、萌衣たちに座るよう促した。白髪交じりの頭を軽くかきながら笑っている。
一見、どこにでもいそうな町工場の親方のようで、『社長』には見えない。
高瀬は腰を下ろすなり、「そうなんですよ!」と山見に対して明るく応じた。
「朝比奈が入ってくれたことで、仕事がしやすくなりました。前任の事務担当が退職してから、案件を一人で回していたので……本当に、助かってますね」
(お世辞かもしれないけど……こうやって褒めてもらうの初めてだ。そんな風に思ってくれていたんだ)
高瀬の言葉に合わせるように、萌衣は笑顔を作る。山見はふむ、と納得したように頷いた。
「……ほう、やはりそうでしたか。いやぁ、朝比奈さんの対応はいつも早くて丁寧で、こちらとしてもすごく仕事がしやすいんですよ」
「とんでもないです、まだまだ慣れないことも多くて……ご迷惑をおかけしないよう、今後も誠心誠意、頑張ります」
「はっはっ、朝比奈さん、一生懸命で良いですねぇ」
商談は終始、和やかな空気のまま進んだ。
YAMAMIは大きなメーカーではないけれど、日本で唯一の加工技術を持っている。
特定の分野では、YAMAMIの名前を知らない者はいないと高瀬からも聞いていた。
いろんな商社が「YAMAMIと提携したい」と名乗りをあげていたそうだが、社長の山見が選んだのは東雲商事——というより、高瀬指名だった。