雨の日が苦手だった、私たちは
軽く気合いを入れて、デスクに座る。今日は陽よりも、萌衣の方が早く出社していた。
早く出社した理由は、久しぶりに二人分のお弁当を作ろうと早起きしたからだ。
(お弁当を作るのはやめますって言ったのに、勝手にまた作り始めて……私、浮かれ過ぎかな)
ふうと小さく息を吐き、給湯室の冷蔵庫にランチバッグを入れた。自分のデスクに戻ると、いつの間にか陽が出社していた。
「おはようございます……!」
「おはよう」
「……あの、高瀬さん」
「ん、どうした?」
いつも隙がないのに、今日はほんの少し、緊張の糸が緩んでいるような気がした。
その変化に気づく人は、少ないのかもしれない。陽本人も気づいていないかもしれない。萌衣は声量を落として、話を続けた。
「今日、外回りがなかったと思うので、お弁当を作ってきたんですけど……あ、もし迷惑だったら、」
「迷惑じゃない。ありがとう、今日もかなり早く起きたのか? 出社も早いし」
「いえ、いつもより少し早かったくらいで……それじゃあ、後で渡しますね」
「萌衣も一緒に、屋上で食べれそう?」
「はい……! あの、会社で名前を呼ぶのは……」
陽はふっと笑ってから、早速仕事に取り掛かっていた。
さすがに人前では「萌衣」と呼ぶことはないと思うけれど、なんだか意味深な笑顔だった。仕事を始めようにも、気が散って集中できない。
続々と社員が出社して、これから朝礼が始まるという時だった。執務室の扉がバンと開いた。
「皆さん、お疲れ様です。今週からこちらに配属になりました、東雲です」
突然嵐のように現れた女性に、営業部の社員全員がぽかんとしてしまう。
「え……」
「あれ、東雲って……」
「社長令嬢? 関連会社に出向してるんじゃ」
「そういえば、そろそろ本社に戻ってくるって話だったもんな。あれ、高瀬さんとのお見合いの噂があったよな」