雨の日が苦手だった、私たちは

 ひそひそと聞こえる囁き声が萌衣にも聞こえ、心音が早まる。どうしてこのタイミングで、同じ部署に配属されたのか。

 嫌な予感が消えない中、サエが動き始めた。朝礼が終わり、サエが陽のデスクまでやってきたのだ。もちろん、他の社員はみんな聞き耳を立てている。


「高瀬さん、お疲れ様です。今週からよろしくお願いします」
「東雲さん、お疲れ様です。あ、他のメンバーを紹介しますね。俺の営業事務を担当してくれている、朝比奈です」


 突然話を振られた萌衣は、勢いよく立ち上がり「朝比奈です!」とお腹から声を出した。
 サエに興味深そうに見つめられ、萌衣の体は固まってしまう。そして突然、彼女は「なるほど〜!」と大きな声を出した。


「高瀬さんの“想い人”は、朝比奈さんだったんですね〜!」
「え、ちょ、東雲さん……!」


 一体何を言い出すのかと思いきや、陽の想いをあっさり皆の前で明かしてしまった。もし萌衣が告白を受ける前に同じ状況になっていたら、一体どんな修羅場になっていたのだろう……。

 サエは豪胆なのか、それとも何も考えていないのか、よく分からなかった。萌衣が何か言い返す前に、周りがざわざわし始めた。


「想い人……?」
「え、東雲さんと高瀬さんのお見合い話って嘘だったの?」
「高瀬さんの想い人が朝比奈さんって……? え、東雲さんがいるのに、全然、修羅場感がないね」
「一体、どういうこと?」


 サエの発言を受けて、陽は「はぁぁぁ」と明らかに不機嫌そうに頭を抱えている。そして諦めたのか、周りにも聞こえるように言った。


「想い人というか、もう付き合ってます」
「え、高瀬さん……!」
「じゃあ、お二人の想いは通じ合ったんですね! 私、もしかして二人の恋のスパイスになったのかしら? とにかく、朝比奈さんとはお友達になりたいと思っていたんです! あとでLIMEの連絡先教えてくださる? 今度、ご飯に行きましょうよ。美味しいものをご馳走するわ」
「あ……はいっ。ぜひ、よろしくお願いします!」


 二人の関係を伏せるどころか、初日にあっという間に広まってしまったのだった——。


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