雨の日が苦手だった、私たちは
山見との商談も終わり、萌衣と高瀬はオフィスに戻ってきた。
戻る途中、突然雨が降り始めたものだから、二人の肩にはうっすらと雨の染みが広がっていた。
「結構、雨に降られたな。あれ、朝比奈?」
「あ、すみません。次は来客があるので、先に行って会議室の準備をしてきますね」
「あぁ、悪い。もしかして……さっき言ってた、会議室の温度を上げておくのか?」
「はい、そうです」
「それは……」
高瀬が、何かを言おうか迷っている。
一度言葉を飲み込んだものの、萌衣が首を傾げたからか、高瀬は飲み込みきれなかった言葉を吐き出した。
「……さっきも言ったが、そこまで朝比奈が気を回す必要があるのか?」
「え?」
「問題が起きないなら、やらない方が合理的だろう。全部やっていたら、時間はいくらあっても足りない」
高瀬の正論に、萌衣は少しだけ言葉に詰まる。
少し間を置いて、高瀬ははっきりと言葉にした。
「俺は、まず自分の仕事を減らすことから考える」
高瀬の言葉が胸の奥に、静かに落ちてきた。
萌衣は小さく、「……そうですよね」と高瀬に答える。
(でも——)
思い出すのは、エアコンが故障したあの日のこと。
萌衣は深く考えるよりも先に、足が会議室の方へと向いていた。
この後の来客で使用する部屋は、前に予定が入っていないことも確認済みだ。誰も使っていないのなら、室内もきっと冷え切っている。
少しでも心地良く、快適に話ができるよう、気を回すのは萌衣にとって『当たり前』のことだった。
誰もいない会議室に踏み入れると、外気の影響か少しだけ肌寒く感じた。空調パネルをタッチして、設定温度を上げておく。
(よし、これで大丈夫)
やるべきことをやって、萌衣はほっと胸を撫で下ろした。そして、飲み物は温かいお茶を出そうとか、他に何が出来るかを思い巡らせる。
準備を終えて営業部に戻る途中、懐かしい声に呼び止められた。
「朝比奈さーんっ」
「……あ、西さん。お疲れ様です」