雨の日が苦手だった、私たちは

 自分のイメージが崩れる、というのは杞憂だったらしい。そんな風に返されると思わなかった。

 まぁ、こんな風に全肯定なのも『朝比奈だから』だろう。

 いつも笑顔の朝比奈。
 彼女が纏う柔らかな空気に、周りの人間が引き寄せられていく。

 以前、同じ部署の石原、安藤、柳の三人と執務室に戻ってきたのを見た時、「あぁ、もう馴染んだのか」と驚いた。


(朝比奈は……俺とは、真逆だな)


 高瀬が笑顔を振り撒くのは、人間関係を作る上で効率が良いから。

 最初に好印象に映れば、その後関係性を作る上でもプラスになる。朝比奈を見ていると『俺は、効率で動いているだけだ』と気づかされる。

 チョコレートを受け取り、早速その場で口に含んだ。甘い。


「……なんか、朝比奈にもらってばっかりだな。この前はコーヒーも淹れてもらったし」
「え? あぁ、そんなこと気にしなくて良いですよ」
「いや、もらってばっかりだと落ち着かないんだ。何か、困ってることないか?」
「ふふ、高瀬さん、もらい慣れてない人みたいです」


 もらい慣れていないというより、『後で高くつきそうだな』と反射的に思ってしまう自分に嫌気がさす。

 これまで、朝比奈が見返りを求めてきたことなんてない。だから、本来はそんな心配をする必要は無いのだ。

 朝比奈は「うーん、そうですねぇ」と言って、困り事がないかと真面目に考えている。
 
 
「あ、そうだ! 今やってる資料作り、もう少し綺麗にまとめたいんですけど……高瀬さんはいつも、こういうのさくっとまとめてますよね? 何か秘訣があれば、ぜひ教えてほしいなって」
「ん? どの資料?」


 そう言って朝比奈に近づき、一緒に画面を見る。
 今でも充分整っているが、提案資料としては綺麗過ぎる。もう少し、メリハリをつけた方が良さそうだ。

 重要な言葉は強調する。先方が一番知りたい情報を大きくする。……もう少し工夫できそうな所はあった。


「あーこれか……そうだ。この本、貸すよ」
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