雨の日が苦手だった、私たちは

 時間に余裕はできたものの、空調を見に行った朝比奈は戻ってこない。なぜだろう。
 なんだか嫌な予感がするなと思い、無意識のうちに足を動かしていた。

 
「朝比奈!」

 
 後ろ姿を見つけ、つい大きな声を出してしまっていた。朝比奈ともう一人――総務部の西の視線も、こちらに向けられる。

 西が手に持っている資料、これまでの西の噂、それら全てが一瞬で頭をよぎり、高瀬は目の前の状況を理解した。

 
「えーっ、国内営業部の高瀬さんじゃないですか〜! お疲れ様です、総務部の西です♡」

 
 西が高い声を出して、挨拶をしてくる。
 彼女の興味が自分に向いたことで、近くにいた朝比奈はほっとしたように胸を撫で下ろしていた。

 西に仕事を押し付けられそうになっていたのだろう。

 甘ったるい声に、やけに媚びた仕草。
 いちいち気にするほどのことでもないと切り捨て、いつもの笑顔を作って彼女に向けた。

 
「西さん、お疲れ様です。うちの朝比奈に、何か用ですか?」


 その声に、ぴくりと反応したのは朝比奈の方だった。目の前の西は、こちらの苛立ちには微塵も気付いていない。


「朝比奈さんからの引き継ぎの箇所で、分からない所があって〜。それで、」
「そうなんですね、どんな内容ですか?」

 
 被せるようにして、本題に入る。
 こちらも来客があって時間がない。優先順位は明らかだ。

 結局、同期の下島に押し付けるような流れにしてしまった。後で下島には、飯を奢るなりしてきちんと礼はしようと思う。


 そして、朝比奈にまで注意してしまった。
 明らかに悪いのは西だというのに。
 それでも、朝比奈が何も言わずに受け入れようとしていたことが、なぜか妙にもどかしかった。

 
 その後は、無意識のうちに朝比奈の手を取り、歩き始めていた。

 彼女に指摘されるまで、繋いでいることにも気付いていなかった。一体、何を焦っていたのだろうと、一度自分を落ち着かせるように息を吐く。
 

「高瀬さん、私のために、庇ってくれたんですか?」

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