雨の日が苦手だった、私たちは
雨に降られて、そして。
執務室の入り口から、「お疲れ様です」と言う声が聞こえて、萌衣は声のする方へと視線を向けた。
高瀬が外回りから帰ってきたのだ。
萌衣が異動してから、あっという間に3週間が経っていた。今日こそは、“あること”を高瀬に聞こうと思っている。ちなみに、それは仕事とは全く関係がない。
「朝比奈、お疲れ」
「高瀬さん、おかえりなさい」
「……ん? 何かあった?」
こちらに用があると、察してくれたらしい。
仕事中にわざわざ聞くようなことではないし、しかも今はちょうどお昼時なのだ。
このタイミングを逃してはいけない、と思った。
「高瀬さん、お昼は外で食べてきました?」
「え? あー……いや、軽く?」
「もしかして、甘いものだけ食べたとか?」
「……朝比奈、俺の行動が見えるのか? 特殊能力?」
「嘘、冗談で言ったのに……! まさか本当に甘いものだけで済ませたんですか?」
ばつの悪そうな顔をして、高瀬はふいと視線を逸らす。
萌衣はデスクの上に置いていたミニバッグを手に取り、もう片方の手を高瀬の腕に伸ばした。逃がさない、とばかりにきゅっと掴む。
「高瀬さん、午後はオフィスで作業ですよね? もし時間があるなら、一緒に食べませんか? 軽くで良いので」
「俺は別に」
「じゃあ、“打ち合わせ”ってことにしましょう。私が落ち着くので。それならどうですか?」
このひと言で、高瀬は全てを察したらしい。
特に拒否することなく、無言で萌衣に腕を引かれていた。
前々から、萌衣は高瀬がお昼ご飯を抜いていることが気になっていた。
少食というわけでも、ダイエットをしているわけでもなさそうなのだ。今まで食べる時間もないくらい忙しかったから、それが当たり前になってしまったのだろうと思っていた。
「高瀬さん、好きなもの買ってきてください」
「朝比奈は?」
「私はお弁当がありますから」
萌衣は手に持っていたランチバッグを持ち上げ、「これです」と高瀬に見せた。