雨の日が苦手だった、私たちは
「へぇ、美味しそう。オムライスプレートより、そっちの方が良かった」
「えぇ? オムライスプレートの方が美味しいですよ。私はプロじゃないですし」
萌衣はきんぴらごぼうに箸を伸ばし、「高瀬さんは大袈裟ですね」と笑ってしまう。
すると、高瀬は思わぬことを口にした。
「朝比奈のお弁当だったら、ちゃんと食べる習慣も戻りそうだな……」
ぼうっと、まるで独り言のように呟いている。
(――え?)
萌衣の耳にも、その言葉は確かに届いていた。
ただ、それがどんな意味を持つのか、よく分からない。
「高瀬さん、私がお弁当を作ったら、ちゃんとお昼も食べてくれますか?」
「え……あ、悪い、今無意識だった……いや、ここのメニューが洋食とか脂っこいものが多いから、そういうのもあったけど……朝比奈の負担になるのは嫌なんだ」
そう言って、高瀬は困ったように笑っている。
でも、もし自分が作ることでちゃんと食べてくれるのであれば――。ひと口食べて『やっぱり良い』と言われたら、その時は素直に引き下がろう。
「良かったら、こちら食べてみませんか?」
「え……あぁ、ありがとう」
お弁当に入っている卵焼きを、高瀬のお皿の上に乗せた。唾を飲み、様子を伺う。やっぱり、押し付けがましかっただろうか。
「ん、美味い」
高瀬の頬が緩んだのを見て、ほっとしてしまう。
高瀬は笑顔を作るのが得意だ。
だから、気を遣って『美味しい』と言わないか、正直不安だった。
でも、今の表情には、嘘がなかったと思う。
萌衣は改めて、自分の想いを伝えることにした。
「……ちゃんと食べてほしいって、今日無理やり誘ったのは私ですし。私のお弁当と別のものを作るのは大変ですけど……全く同じでも良ければ、全然負担じゃないですよ?」
「そう、なのか?」
高瀬はまだ迷っている。
でも、どうやら押し負けたようだ。
「じゃあ……朝比奈の負担にならない範囲で、お願いしたい。お金も払うし」
「プロじゃないので、お金は要りません」
「いや、材料費もかかるだろう」
何度か押し問答をした結果、お弁当箱は高瀬が用意し、機会があればご飯やコーヒーをご馳走してもらうことになった。