雨の日が苦手だった、私たちは
「いえ、そんなことないですよ。あ、すみません、お客さんから電話来たんで一回出ますね」
そう言って、高瀬は社用スマホを持って出て行ってしまった。
残された西、石原、萌衣の三人は、特に喋ることもなく目の前のお酒を口に運んだ。
西はというと、先ほどまでの態度が嘘かのように、全く違う顔をしていた。高瀬と話していた時とは正反対の、気怠げな顔。
「はぁー、高瀬さんいなくなっちゃった。やっぱり格好良いなぁ、石原くんもそう思う?」
「えぇ、そう思いますよ。高瀬さんは俺の憧れなんで」
「へぇ、やっぱりそうなんだー! ねぇ、朝比奈さん」
こちらに視線を向けられ、言葉よりも先に体がぴくりと反応してしまう。「はいっ」とお腹から声を出していた。
「高瀬さんのサポートだからって、自分が特別だなんて勘違いしちゃダメよ?」
「勘違いは……していない、ですよ」
突然釘を刺されて、萌衣は無理やり笑顔を作る。
(分かってる。分かってるのに、どうしてこんなに胸が痛いんだろう……)
ツキンと、細い針で刺されたような痛みが走る。
でも、周りから指摘されるほど、自分の態度に出ていたのかもしれない。きっと、高瀬との距離の取り方は気をつけた方が良いのだろう。
その後は何を話したのか、萌衣はあまり覚えていない。
お酒を飲んで記憶が曖昧なのか、突然釘を刺されて衝撃を受けたからなのか。
イタリアンバルを出て、店の前でぼうっと立っていると、後から出てきた高瀬に声をかけられた。
「朝比奈、明日訪問する企業の件で、資料の確認をしたいんだけど……少し話せる? 駅に向かいながらでもいいから」
「あ、はい、大丈夫です」
そう伝えると、二人の間を割って入るように西が現れた。
「えー、高瀬さん、もう帰っちゃうんですか〜? みなさん、二次会に行くそうですよ〜!」
「さっきも言いましたけど、俺は仕事が残ってるので。朝比奈、行くぞ」
「は、はいっ……!」
西の視線が痛い。
それでも、これは仕事だと萌衣は自分に言い聞かせた。