雨の日が苦手だった、私たちは
 高瀬と二人並んで歩き出すと、早速明日の営業の話を切り出された。


「悪い、資料って何部印刷してくれてたっけ? 先方の人数が増えたのと、もしかしたらデータの差し替えがあるから……印刷し直しかもしれない」
「元々は二部印刷しています。データの差し替えはどのページか覚えてますか?」
「えーっと、さっき電話で話して……」


 萌衣は見上げて、高瀬の様子を伺う。すると、頬に何かが当たった。


「あ、雨……」
「え? あぁ、本当だな」
「駅まで、急ぎましょうか」
「いや……あそこに入るか。朝比奈、まだ時間大丈夫?」


 指さす方を見ると、煌々と明かりがつくカフェがあった。
 萌衣は「はい」と小さく頷く。高瀬の話はまだ途中だし、この後も特に予定はない。
 二人でカフェに入ると、店内の暖かさにふっと体の力が抜けた。


「朝比奈もコーヒーで良い?」
「あ、はい。お金払いま……」
「いや、お弁当の代わりに俺が払うってなってるだろ?」
「……そうでした、では、お言葉に甘えていただきますね」

 
 萌衣はカフェの席を確保すると、両手にコーヒーカップを持った高瀬がやってきた。雨宿りしている人が多いからか、空いているのがカウンター席しかなく、二人並んで座った。
 目の前の大きな窓は、しとしとと降る雨を映し出している。

 高瀬はコーヒーを一口含み、ふうと小さく息を吐いた。萌衣も同じように、コーヒーを口に運ぶ。


「……今日も、落ち着かない?」
「え?」


 不意をつかれたように質問され、咄嗟に言葉が出てこなかった。
 高瀬の視線は、窓の外の景色に向いている。
 雨だから、そのことを聞いたのだと数秒遅れて理解した。


「……雨ですが、今はそわそわしていないです」
「この後、仕事がないからか? まぁ、俺はこれから仕事の話をする訳だけど」
「そうですね、あとはもう家に帰るだけだから、かもしれません」

(……なんでだろう、最近、高瀬さんと一緒にいると、肩の力が抜ける気がする。最初はあんなに緊張してたのに)
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