雨の日が苦手だった、私たちは
 ふと、高瀬に視線を向けると、先にこちらを見ていたらしくぱっと目が合った。思いのほか距離が近く、萌衣はふいっと思い切り目を背けてしまう。
 視線を逸らし、とくとくと早まる鼓動を必死に落ち着かせた。


(……やっぱり、緊張するっていうのは変わらないかもしれない)


「朝比奈?」
「あ、いえっ……! すみません、えっと、今は全然そわそわしません。折りたたみ傘もありますし。高瀬さん、今日は傘持ち歩いてますか?」
「あー……忘れたかも、朝比奈、後で頭だけ入れて」
「えぇっ、それじゃ風邪引いちゃいます。傘貸しますので、」
「それだと、朝比奈が風邪引くだろ。まぁ、カフェ出た時の雨次第だな」


 高瀬が切り替えるように、仕事用のメモ帳を取り出した。
 飲み会中にクライアントから電話がきて、その内容をメモしておいたらしい。そうして、仕事の話を全て終えた後、高瀬は「あ、そういえば」と何かを閃いたように言った。


「お弁当箱」
「え?」


 今日の高瀬は、本当に予想がつかない。
 二度目の不意打ちは、少し考えても何を言いたいのか分からなかった。


「駅ナカの店、まだぎりぎりやってるよな? そこでお弁当箱、買えるかなと思って。朝比奈、付き合ってくれる?」
「えっ、あ、はい……! 大丈夫です」


 荷物をまとめてカフェを出ると、外はまだぱらぱらと雨が降っていた。折りたたみ傘をさして、高瀬に渡そうとする。


「あの、傘、良かったら使ってください。そんなに降ってないし、駅も近いので私は走ります」
「いや、そもそも朝比奈の傘だし、走るなら俺の方だろ。まぁでも……」


 そう言って、高瀬は萌衣の手から折りたたみ傘を持ち上げた。そして、二人で分け合うように、真ん中で傘を持つ。
 でも、ほとんど萌衣の方に傘が傾いていて、高瀬は肩が濡れていた。


「え、これじゃあ高瀬さんが濡れちゃいます……」
「良いから。ほら、早く駅に向かおう」
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