雨の日が苦手だった、私たちは
 でも、そのエリアは他に飲食店がないせいか、わざわざお昼時に出向いたことがない。

 大通りに面しておらず、奥まった場所にあり、お店があることを知っていないとなかなか辿り着けなさそうな場所だった。
 今日は休日だというのに、既にお店の前には三人並んでいた。


「三人くらいなら、すぐ入れそうだな。もうすぐ開店だから、並んで待とう」


 早速、二人で列に加わる。
 待っている間はランチメニューを見て、高瀬のおすすめを教えてもらった。

 彼の説明は、どれも美味しそうに聞こえるから不思議だ。プレゼンが上手いからなのか、それとも本当にこの店が気に入っているからなのか。


(高瀬さんのお気に入りのお店を教えてもらえて、嬉しいなぁ)


 説明を聞きながら、ふと、そんなことを思う。
 高瀬の大事なものをこっそり教えてもらったような。彼の“特別”を分けてもらったみたいだと思った。

 だからといって、自分が特別だとは思っていない。西に言われた通り、勘違いはしない。


 店の扉が開き、中に足を踏み入れると、木目調の店内にほっと肩の力が抜けていく。

 温かい店内では、控えめな音量でボサノヴァが流れていた。穏やかな空気の中、ギターの軽快なリズムが店内を包み込む。


(昔ながらの洋食店って感じで、落ち着く)


 店内を見渡しながら、少しずつその空気に身も心も委ねていく。
 高瀬は「お客さんに勧められた」と言っていた。でも、昔ながらの雰囲気を纏うこの店を気に入っているのは、少し意外だった。

 仕事で高級なお店に行くことも多いだろうし、そういう場所にいるイメージがあったからだ。


「今日は俺の奢りだから、好きなもの食べて。この間のお詫び」


 本当に良いのだろうか。そう思い、ちらと高瀬の方を見ると、にこりと笑顔を作ってこちらを見ていた。これは、素直にご馳走になるのが良さそうだ。

 メニューをめくっていると、お肉を焼く香ばしい匂いがふわりと鼻先をかすめた。


「お肉……ハンバーグですかね? すっごく美味しそうな匂いがします」
「朝比奈、前も雨の匂いの話してたけど、本当に鼻がいいんだな」
< 45 / 134 >

この作品をシェア

pagetop