雨の日が苦手だった、私たちは
「はい、匂いには敏感かもしれないです。ハンバーグにするか、高瀬さんが言っていたパスタにするか、迷います……」
「だったら、どっちか片方を俺がオーダーして、分けて食べるか?」
「えっ、良いんですかっ?」
高瀬の提案に、萌衣は声を弾ませる。
それを聞いた高瀬は、くすりと笑った。少しはしゃぎ過ぎただろうかと、萌衣は興奮を抑えて話を続けた。
「……それでは、お言葉に甘えて。良いですか?」
「もちろん。朝比奈はどっちにする?」
「じゃあ、私は……ハンバーグプレートで」
「了解、じゃあ俺はパスタで」
結局、どちらも萌衣の食べたいものをオーダーすることになってしまった。
運ばれてきたハンバーグは、鉄板の上で小さくパチパチと音を立てている。立ち上る熱と湯気に、視線は釘付けになった。
先ほど鼻先を掠めた香りが、今、目の前にある。
萌衣は思わず息を詰めた。
高瀬がパスタを手際よく小皿に取り分ける。それを見て萌衣ははっとした。
「すみません、高瀬さんはどれくらい食べられますか?」
萌衣も急いでハンバーグをカットして、ご飯と一緒に小皿に乗せる。それを見た高瀬は、「それで充分、ありがとう」と優しく微笑んだ。
一口大に切ったハンバーグをぱくっと口に含めば、香ばしい香りがふわりと広がっていく。高瀬が勧めたパスタではないけれど、やっぱりこちらも美味しい。
お肉の旨味を堪能していると、高瀬がパスタを食べる手を止め「朝比奈」と話しかけてきた。
「この前の“彼女”発言、嫌な思いさせたか?」
「嫌な思い、ですか?」
「あぁ」
自然と、萌衣も食べる手を止め、水をひと口含んでから高瀬を見る。こちらの気持ちを探るような視線には、どこか迷いが混じっているように見えた。
「確かにびっくりはしましたけど……でも、私が彼女だと嘘をついたわけではありませんし、大丈夫ですよ?」
「そうか、なら良かった」
短くそう答えて、高瀬は視線を外す。
そんなに嫌そうな顔をしていただろうかと、萌衣は心配になった。