雨の日が苦手だった、私たちは

「すみません、そんなに嫌そうな顔をしてましたか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。ただ……」
「ただ?」
「嫌だったなら、言ってほしい」
「え?」
「朝比奈は、いつも“平気そう”に見えるから」


 萌衣は改めて、あの時、自分がどう感じたのかを思い出す。
 びっくりはした。
 でも、嫌だったかと聞かれると、そうでもない。

 あの時思ったのは、どうして高瀬が自ら波風を立てるようなことを言ったのか、高瀬には彼女がいるのか……。

 そもそも、彼女がいるならお弁当を作るなんて余計なことを、してはいけないはずだ。


「朝比奈?」


 声をかけられて、はっとした。
 また一人の世界に入ってしまった。萌衣は急いで笑顔を作る。


「いえ、すみません。嫌な思いはしていないのですが、疑問に思ったことがあって……」
「何?」
「あのー……高瀬さんって、実は彼女がいたりするんでしょうか? だとしたら、お弁当を作るなんて余計なお世話だったかなと思いまして」
「いや、いないよ。確かに、彼女がいたら頼めないしな」
「そうですか」


 お弁当作りが余計なことではないと分かり、少し肩の力が抜けた。でも、まだ気になることがあるというのは、ちゃんと高瀬に見抜かれていた。


「他には?」
「えーと、これは疑問というか、感想と言いますか……。意外だなと思いました」
「意外? 何が?」
「高瀬さんが、自分から波風を立てるようなことを言ったので。そういうのは避けるタイプの方だと思っていました」


 萌衣は再び、ハンバーグにナイフを入れる。
 一口サイズに切っていると、高瀬の手が止まっていることに気付いた。何か、変なことを言ってしまっただろうか。
 溢れる肉汁を味わいながら、彼の様子を伺った。

 ほんの少しの間、高瀬は考え込んでいる様子だった。その間も、BGMのギター音が優しく軽快なリズムを刻んでいる。


「……私、余計なことを言ってしまいましたか?」
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