雨の日が苦手だった、私たちは
 軽快な音楽に合わせて、萌衣は思ったことを自然と口にしていた。
 はっとした高瀬は、「いや、違うんだ」と慌てて言う。無意識のうちに考え込んでいたらしい。


「余計なことじゃない。ただ、確かにそうだなって自分でも気付かされたというか」
「え……高瀬さん、自覚がなかったんですか?」
「あぁ。でも、最近は自分でも“らしくない”ことをするなと思うことがあったんだよな……」


 そう言って、高瀬は何かを思い出しているようだった。今までの“らしくない”ことが何なのか、萌衣には分からない。


「らしくない、高瀬さんですか」
「あぁ、なんでだろうな。自分でも不思議に思う」
「でも……それはきっと、今まで知らなかった一面、なのかもしれませんね」
「知らなかった一面……?」


 高瀬は目を瞬かせている。
 「彼女がいる」と嘘をついたのも含めて、高瀬は高瀬。数字に厳しく自分にも厳しい高瀬も、甘いものを食べると頬が緩む高瀬も——全部含めて、彼なのだと萌衣は思う。


「朝比奈って、俺が変なことしても……あんまり気にしなさそうだよな」
「えぇ、変なことってなんですか? 内容次第ですよ?」
「そうだな、例えば……突然ギャグを言って盛大に滑ったり」
「ふふっ、高瀬さん、ギャグとか言うんですか?」


 笑顔になり、二人の間を流れる空気が緩んでいく。そして再び、目の前のご飯を食べ始めた。

 お腹も満たされ、食後のコーヒータイムになった。これが終わったら高瀬とお別れかと思うと、少し寂しくなる。心なしか、コーヒーをいつもよりゆっくり飲んでいた。


「そろそろ出るか」


 高瀬の声で、萌衣ははっとした。
 お店を出る前にお手洗いに行くと、その隙に高瀬はお会計を済ませてくれていた。
 お店を出て、萌衣は改めてお礼を伝えた。


「高瀬さん、ご馳走様でした」
「いや、俺も久しぶりにこのお店に来れて良かった」


 二人並んで、駅方面に歩き始める。なんだか名残り惜しく、気付けば萌衣の足取りはわずかに遅くなっていた。
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