雨の日が苦手だった、私たちは
 最初に待ち合わせた場所に戻ってきて、足を止めた。別れなければならないのに、萌衣はすぐに言葉が出ない。


(……でも、高瀬さんは時間を無駄にしたくないだろうから)


 すぐに気持ちを切り替え、顔を上げた。すると、高瀬の方が先に「朝比奈、」と口を開いた。


「今日、まだ時間ある?」
「え?」
「時間あるなら、もう少し付き合ってくれない?」
「私は大丈夫ですけど、高瀬さんもお時間あるんですか……?」
「あぁ。ちょっと行ってみたい場所があって」


 思いがけない誘いに、萌衣は驚きながらも「はい」と頷く。
 空を見上げれば、午後は雨予報だったけれど、まだ天気は持ちそうだ。

 それに、雨が降ったとしても傘は二本ある。萌衣は再び、高瀬と並んで歩き始めた——。


***


 高瀬の行きたい場所は、最寄り駅から三駅先にあった。電車に乗り、駅から少し歩いていくと、青い看板が見えた。彼はそれを指さし、「あそこ」と言う。


「ブックカフェ、ですか?」
「そう、本が置いてあって、軽食を楽しみながら読書ができる。で、そこのクラシックプリンとか、パフェが美味しそうなんだよな」
「さすが甘党な高瀬さん、行ったことはあるんですか?」
「いや、それがまだなくて。時間ができたらいつか行きたいなと思ってたんだ。せっかくだから、朝比奈を誘ってみた」
「そういうことだったんですね」


 隣を歩く高瀬を盗み見ると、なんだか機嫌が良さそうに見えた。
 甘党であることを唯一知っている萌衣だからこそ、こうして高瀬の趣味にも付き合えるのかもしれない。

 ブックカフェの扉を開け、しんとした空間に足を踏み入れる。

 パフェを食べながら談笑している女性もいるが、会話の声は大きくない。一人静かに、本を読んでいる人の方が多い。

 店内はゆったりとした静かなピアノのBGMが流れていて、その合間に、本をめくる音も心地良く響いた。萌衣はそっと、高瀬に話しかける。


「……高瀬さん、素敵な空間ですね」
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