雨の日が苦手だった、私たちは
 高瀬も「そうだな」と小声で言い、小さく頷いた。
 案内された席に荷物を置き、メニューを見る。萌衣はクラシックプリンとコーヒーを、高瀬はパフェとコーヒーをオーダーした。

 なんと、パフェは出来上がるまでに20分かかるらしい。一体どんなものが出てくるのか、オーダーしていない萌衣までわくわくしてしまう。

 プリンとパフェを待っている間、二人は早速、店内に並ぶ本を見ることにした。


「へぇ、いろんな本がありますね。これとか、旅のエッセイですよ」
「本当だ、面白そうだな」
「高瀬さんって、ビジネス書を読んでるイメージが強いんですけど……普段、他にも本を読んだりするんですか?」
「もちろん、ビジネス書以外も色々読むよ」


 わざわざブックカフェに来るくらいだし、甘党なだけでなく本も好きなのだろう。
 でも、あまりにもビジネス書“以外”の本を読んでいるイメージが浮かばない。それくらい、萌衣の中での高瀬は“仕事中心の人”なのだ。


「そうだなー例えば……こういう本も好きだし」
「え、そうなんですか?」

 
 高瀬の手元にある本を覗き込めば、それはとある地方を特集したガイドブックだった。


「仕事柄、地方に行くことも多いけど、ゆっくり観光できるわけじゃないからな。仕事じゃなくて観光で、改めて行きたいなと思うこともある」
「なるほど、あ……ここ、良いですね」


 高瀬の開いたページは、たまたま温泉宿の紹介が並んでいた。
 萌衣はその中の一つを指さし、「あ、ここも気になります」と素直に思ったことを呟く。


「金沢の温泉宿か、いいな。この辺行ったことある?」
「いえ、ないです」
「そうか、俺は出張で行ったことはあるけど、泊まるのはいつもビジネスホテルだし。たまには温泉宿でゆっくりしてみたいな」
 
 
 本を閉じて、近くにあった別の本を開き、また二人で意見を言い合う。
 静かな空間の中、二人で囁くようなやり取りは、なんだか秘め事を共有しているようだと錯覚してしまう。
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