雨の日が苦手だった、私たちは

 ――その後、高瀬のレクチャーが始まった。
 営業事務の仕事は、総務部にいた頃と似ているようで、まったく違っていた。

 見積書や請求書の作成、受注データの処理、顧客対応からプレゼン資料の作成まで……。
 とにかく仕事の幅が広く、初日から萌衣の頭はパンクしそうだった。

 
「営業事務って、こんなに仕事が多いんですね。総務だって別に暇だったわけじゃないんですけど……」

 
 始まって早々、つい弱音を吐いてしまう。
 いつも前向きな萌衣も、まったく不安が無いかと言えば嘘だ。

 突然の部署異動、やったことのない業務。
 同じ会社とはいえ、知らない人ばかりの環境。

 そして、仕事内容を理解すればするほど、本当にここでやっていけるのかと不安が募っていく。
 

「……高瀬さん、前任の営業事務の人がいなくなった後って、どうやって回してたんですか?」
「ん? あーそれは、もちろん全部自分で」
「えっ……この業務量を一人で……?」
「まぁ、やるしかないからな」
「すごい、です……」


 さらりと言ってのける高瀬に、萌衣は声を失った。
 高瀬は国内営業部の中でもトップセールスだと聞いていたが、その理由が分かった気がした。

 自身の営業活動だって忙しいだろうに、その合間に事務作業も全てこなしていたというのだ。


(高瀬さんの足を引っ張らないように、私も頑張らなきゃ)


 萌衣は心の中で、固く誓う。彼の足手まといになってはならないと。

 これまでの営業事務がなぜ辞めてしまったのか、本当のところは分からない。個人的な理由かもしれないし、高瀬があまりにも仕事ができるから、自信をなくしたのかもしれない。

 周りが色々と噂していても、結局、真相はその人にしか分からないのだ。

 でも、高瀬の説明を受けている時、萌衣はあることに感動していた。


(高瀬さんの説明って、言葉は淡々としているのに、ひとつも無駄がない)

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