雨の日が苦手だった、私たちは

 そう、高瀬の説明は、本当に完璧だった。

 以前、ある先輩の下についた時は、ほとんど面倒を見てもらえなかった。他部署に情報を取りに行き、一人で調べ、手探りで進めるしかなかった。

 結局、その先輩自身も業務をよく理解していなかったのだと、後から知った。


(総務にいた頃は、西さんに丸投げされてたなぁ……こうやって丁寧に噛み砕いて説明してくれるだけで、親切だと思うし)


 周りが『鬼』と言うのも、結果に対してストイックに向き合っているからだろうなと思い始めた。


「朝比奈、ひとまずここまで理解できた?」
「はい、高瀬さん、本当にありがとうございます……! とっても分かりやすかったです」
「なら良かった。それじゃあ早速、この伝票の処理お願いして良い?」


 高瀬から渡された書類を、萌衣は受け取る。
 目の前のパソコンで社内システムにログインし、必要な数字を入力していった。その間、高瀬は別の仕事に取り掛かっている。

 書類作業がひと段落した頃、高瀬から声をかけられ、社内ミーティングに同席することになった。
 まさか、その場で“噂の意味”を知ることになるとは、思いもしなかった——。





「鈴木、今回の提案にその数値を持っていく根拠は何だ?」
「はい、過去に提案した内容をベースにしておりまして……」
「過去、というのはいつのデータだ?」
「確認します、えぇっと……」
「把握していない数値を前提に、提案しているのか?」


 高瀬から引き継いだばかりの案件だという。
 次年度の提案を控えた、最終チェックだった。
 ……でも、始まって早々、会議室はしんと静まり返っていた。
 
 萌衣は、向かいに座る鈴木の様子をじっと見つめる。指先がほんの少し、震えているような気がした。ちらと、視線を高瀬の方に移す。


(……さっきと、同じ目だ)


 あの、太陽みたいな笑顔の奥にあった目。
 熱くもなく、冷たくもなく、一定の温度。
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