雨の日が苦手だった、私たちは

「ふふ、良いんですよ。すみません、私がじっと見ていたから、食べづらいですよね」
「いや、それは全然大丈夫。むしろ、自分の世界に入ってて、全く周りが見えてなかった」
「高瀬さんでも、そういうことがあるんですね。思う存分、甘い世界に浸ってください。私もプリン、すっごく美味しいです」
「そうか、なら良かった」


 二人の視線が交わり、笑みが溢れる。
 ふと窓の方を見ると、天気予報通り雨が降り始めていた。

 萌衣の視線をなぞるように、高瀬も窓に目を向ける。二人で静かに、外の景色を眺めた。高瀬は何かを思い出したように、口を開いた。


「そういえば、今日はどう?」
「え?」
「雨が降ってきたから。仕事じゃないから、落ち着いてる?」


 何の脈絡もなく投げかけられる。
 これまで、何度か聞かれた質問だ。

 最初に聞かれた時は仕事中ということもあって、その後のスケジュールばかり考えていた。
 二度目は、歓迎会の後に立ち寄ったカフェでのことだ。

 三度目の今日は完全にオフ。
 今は——どうだろう。

 高瀬は答えを急かすこともなく、ただ待っている。

 
「んー……そうですね。やっぱり、この後仕事がないからかそわそわしないです。最近は雨でも、前ほど落ち着かない感じがしなくて」
「そうなのか?」
「はい。お茶をしたり、美味しいものを食べたりしていると——雨の日でも、ちゃんと目の前のことに集中できるようになった気がします」

 
 高瀬はコーヒーに口をつけ、小さく息を吐いた。

 
「……そうか。なら良かった」


 それだけの返事なのに、なぜか胸の奥が落ち着かない。
 お茶をしたり、美味しいものを食べたり……これはどれも高瀬と過ごした時間だと、萌衣は口にしてから気づいてしまった。
 
 この気持ちに名前をつけてしまうのが、少し怖い。
 
 ピアノのBGMと、かすかに聞こえる雨の音。
 その全てが、萌衣を優しく包み込む。胸に残ったこの感情を、どう扱えば良いのか分からないまま。


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