雨の日が苦手だった、私たちは

 スクリーンの光が高瀬の横顔を照らし、輪郭をくっきりと浮かび上がらせる。その目だけは影を帯び、静かに相手を見据えていた。


「……高瀬さん、」


 張り詰めた空気に耐えきれなくなり、萌衣は声を絞り出す。
 その声と重なるようにして、目の前の鈴木が「あのっ……遅くなりました……!」と声を出した。
 それを聞いて、萌衣はほっと胸を撫で下ろす。

 鈴木の説明を聞き、高瀬は小さく頷いた。
 会議はスムーズに進んでいく。終わる頃には、鈴木も「ありがとうございましたっ!」と言って深々とお辞儀をしていた。

 会議室に二人残り、自席に戻ろうかと高瀬が腰を上げた時だ。


「あの、高瀬さん……」
「どうした?」


 どうしようか、と萌衣は迷う。
 高瀬の言っていることは、全く間違っていない。

 この場にいた誰もがそう思っていたし、高瀬の助言で間違いなく契約は取れるだろう。今までも、こうやって仕事をしてきたのだと思う。

 異動初日の自分が、仕事の仕方であれこれ言うのは差し出がましい。でも——。


「……鈴木さん、引き継いだばかりで、まだ把握しきれていないみたいでした」


 それを聞いて、高瀬は首を傾げる。

 
「それはー……そうだな。俺もそうだと思う。でも、当日は鈴木一人でどうにかしないといけない。最低限、数字は抑えておくべきだろう」
「そう、ですよね……」


 確かに、高瀬の言う通りだ。それでも、鈴木の震える指先がどうしても萌衣の頭から離れなかった。





 会議が終わり、高瀬から「お昼休憩してきたら」と促されたので、一人で社員用カフェテリアに向かうことにした。もちろん、高瀬はデスクに戻り、そのまま仕事に取りかかっていた。


(高瀬さん、いつご飯食べてるんだろう? もしかして、お昼は食べない派なのかな……?)


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、突然後ろから「朝比奈さん!」と声をかけられた。振り向くと、スーツを着た男性社員がこちらに手を振って近付いてくる。


「お疲れ様です。同じ営業部の石原です! これからランチですか?」
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